黙照禅

黙照禅とは

黙照禅（もくしょうぜん）は、禅宗における坐禅の流儀の一つを指す言葉です。その特徴は、一切の思慮分別を断ち、ただひたすらに坐ることに重点を置く点にあります。この流儀は、対立する概念である看話禅（かんなぜん）と比較されることが多いです。

歴史的背景

黙照禅という言葉は、宋代の禅僧である大慧宗杲（だいえそうこう）が、自身の属する臨済宗と対立する宏智派の禅風を批判したことに端を発します。大慧は宏智派の禅を「黙照邪師（もくしょうじゃし）」と呼び、その坐禅を批判しました。

この批判の対象となった宏智派の禅風は、その始祖である宏智正覚（わんししょうがく）が説いた『黙照銘』に基づいています。『黙照銘』では、坐禅の本質は、一切の思考や分別を停止し、ただ黙々と坐ることで、人が本来持っている仏としての心性が現れ、仏の徳が備わると説かれています。

これに対し、大慧宗杲は、公案（禅問答）を用いた工夫や参究を重視しました。彼は、ただ坐るだけの宏智派の坐禅を、空虚なものとして捉え、「黙照邪禅」と非難したのです。しかし、その後、この言葉は公案を用いない坐禅の流儀全般を指す言葉として使われるようになりました。

日本における黙照禅

日本では、道元（どうげん）によって開かれた曹洞宗（そうとうしゅう）の坐禅を、臨済宗の禅僧が揶揄的に「黙照禅」と呼んだのが始まりとされています。当初は否定的な意味合いで用いられることが多かったのですが、次第に曹洞宗自身が、自らの禅風を指す言葉として使用するようになりました。

黙照禅の特徴

黙照禅は、特定の公案に集中するのではなく、ただひたすらに坐ることを通して、自己の内面を深く見つめることを重視します。この坐禅は、静寂の中で、自己の心の本質に触れることを目的とし、そこから悟りへと至ることを目指します。

関連する用語

只管打坐（しかんたざ）: 曹洞宗の坐禅における基本的な実践方法で、ただひたすら坐ることを意味します。黙照禅と密接な関係があります。
禅宗（ぜんしゅう）: 仏教の一派で、坐禅を主な修行とする宗派の総称です。黙照禅は、この禅宗の中の一つの流儀です。
* 止観（しかん）: 仏教における瞑想法の一つで、心を静止させる止（サマタ瞑想）と、物事をありのままに見る観（ヴィパッサナー瞑想）を指します。黙照禅は、これらの瞑想法と関連があります。

まとめ

黙照禅は、単に静かに坐るだけでなく、自己の内面を深く探求し、悟りへと至るための重要な修行法です。その歴史的背景や、他の禅の流儀との違いを理解することで、より深くその本質を理解することができるでしょう。

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