官司請負制

官司請負制（かんしうけおいせい）

官司請負制は、公家社会において特定の氏族が朝廷の特定の官職を世襲する制度を指します。この制度は平安時代後期から中世にかけて実施され、関白や摂政、特殊技能職、武人職、将軍職などが世襲された結果、官吏の登用や官職の大部分が世襲制となりました。このように、官職の世襲化は「職の体系」と呼ばれる新たな制度を形成しました。

制度の本質として、官職にはその職権に付随して与えられる給与や所領、課税権限などが付くことがあり、これが経済的な権益として機能しました。そのため、日本全国で土地所有が拡大し、特に大規模な世襲の家系は権門と呼ばれました。たとえば、寺社なども含めたこれらの権門家はその地位を代々継承し、強力な経済基盤を築いていきました。

歴史的背景

「官司請負制」という用語は、1980年代以降に佐藤進一や橋本義彦の研究によって広まりましたが、その概念や範囲については歴史学者間で様々な見解があります。一般的には、中級や下級官人が担当する官司の実務部門や特定の技能を継承することで、特定の家系が優位性や独占性を確立し、世襲を進める体制を指します。

この制度は、10世紀から12世紀にかけての律令国家から王朝国家へと移行する過程で形成されたとされています。この時期においては、受領や技能官人、武士が行政や軍事の分野で活躍しましたが、最初に官司請負制が始まったのは“諸道の者”とも称される学者であったと言われています。彼らはその高度な技能を独占的に世襲し、専門職から他の氏族を排除することに成功しました。

特に、紀伝道に関わる菅原氏や大江氏、明経道の中原氏や清原氏、医道の和気氏などがその例です。こうした家系は代々、特定の官職を世襲し、知識や技術を後世に引き継いでいきました。また、事務系官僚の中にも清原氏や中原氏が太政官の局務を担当したように職務に関する知識を受け継ぎ、世襲化を果たした家系が存在しました。

確立と変遷

官司請負制が成立した背景には、律令制の解体がありました。この解体により、太政官を頂点とした官司間の上下関係が消失し、各官司が独自に業務を担うようになったため、特定の官職の世襲が可能となったのです。この新しい体制のもと、確立された官職の枠組みの中で地位が固定化され、少なくとも一族にとっては職業安定性の向上につながりました。

鎌倉時代以降は、以前は“諸道の者”に限られた官司請負が、一般の公家の間にも広がるようになりました。藤原北家四条流の山科家は装束に関する知識を世襲し、内蔵寮の上首を代々務めるようになり、内蔵寮が持つ権限もその家産として認識されました。但し、こうした官司請負の一般化は一時的なものと見なされることもあり、職を巡る争いや経済的背景から官司が移動する場合も生じたため、慎重な見解があったことも事実です。

このように、官司請負制は公家社会の中で技術や知識の世襲という形で形作られ、特定の家系に権利が集中することによって、日本の政治的・経済的状況に大きな影響を与えました。

もう一度検索