山科家

山科家：栄光と苦難の歴史を刻んだ公家・華族

山科家(やましなけ)は、藤原北家四条流を祖とする由緒ある公家・華族です。平安時代末期から明治時代にかけて、朝廷の中枢で重要な役割を果たし、その歴史は栄華と苦難の両面を織りなしています。公家としての家格は羽林家、華族としては伯爵家に列せられました。

平安時代から南北朝時代：朝廷の中枢を担う

山科家の始まりは、平安時代末期に遡ります。初代は、公卿・中納言藤原家成の六男、藤原実教です。当初は冷泉を号していましたが、南北朝時代中期に山科を家名としました。これは、家領であった京都山科荘に由来しています。

特筆すべきは、2代目当主藤原教成の存在です。彼は後白河法皇の寵妃、高階栄子（丹後局）の子でしたが、法皇の命により藤原実教の養子となりました。法皇の庇護のもと、正二位権中納言にまで昇進し、法皇から多くの所領を相続したことで、山科家の基礎を築きました。これらの所領は、山科家の繁栄を支える重要な基盤となりました。また、教成は後白河法皇崩御後、法皇山荘の地に御影堂を建立し、法皇の御真影を安置しました。この法住寺殿御影堂の祭祀は、山科家が代々務めることとなります。

南北朝時代になると、山科家は内蔵頭を独占的に務めるようになりました。内蔵頭は天皇の御服や装束を管理し、朝廷財政にも深く関わっていた重要な役職です。このことから、山科家は装束・衣紋を家業とするようになりました。室町時代には、四条家と並ぶ楽所別当となり、雅楽、特に笙を家業とするようになりました。

戦国時代から江戸時代：苦難と記録

戦国時代に入ると、山科家は所領の多くを失うなど苦境に立たされました。唯一残った山科東荘ですら、言継の代に幕府に奪われ、経済的な基盤は大きく揺らぎました。この時代の山科言国と山科言継は、『言国卿記』と『言継卿記』という貴重な日記を残しており、当時の社会情勢を知る上で重要な史料となっています。

言継の子、言経は一時、勅勘をこうむり堺に下りますが、豊臣秀吉や徳川家康らの尽力により赦免されます。その間、四辻家から教遠が山科家名跡を継ぎ、後に弟の教利が継承しました。言経の復官後は、教利は猪熊家を興して猪熊教利と名乗りました。言経の子、言緒は徳川家康と親交があり、冷泉為満とともに江戸へ下向することもありました。江戸時代の山科家の所領は300石で、高倉家とともに天皇の装束類の調進を担っていました。

明治時代以降：華族としての歩みと転換期

明治維新後、山科家は華族に列しました。家禄は311石で、金禄公債の額は1万1271円70銭5厘でした。華族令の施行により、言縄が伯爵位を授けられました。しかし、言綏の代には経済的困窮やスキャンダルに見舞われ、廃嫡という事態も発生しました。この苦境を救ったのは、久世通章子爵らの尽力でした。宮内省による旧記の買い取りなど、経済的な支援がなされました。その後、言綏は家督と伯爵位を相続し、京都岡崎に和風邸宅源鳳院を建設しました。現在、源鳳院は旅館として利用されています。

4代伯爵言泰は蹴鞠保存会の会長を務め、2018年には明治以降初となる生前継承が行われ、言和が29代目当主となりました。山科家は、栄華と苦難、そして復興という歴史を歩んできたと言えるでしょう。その歴史は、日本の歴史と深く結びついています。

参考文献

今谷明『戦国時代の貴族：「言継卿記」が描く京都』
菅原正子『中世公家の経済と文化』
浅見雅男『華族誕生：名誉と体面の明治』
石川健次郎「明治前期における華族の銀行投資―第15国立銀行の場合―」
刑部芳則『京都に残った公家たち: 華族の近代』
小田部雄次『華族：近代日本貴族の虚像と実像』
霞会館華族家系大成編輯委員会『昭和新修華族家系大成 別巻 華族制度資料集』
霞会館華族家系大成編輯委員会『平成新修旧華族家系大成 上巻』
華族大鑑刊行会『華族大鑑』
橋本政宣『公家事典』

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