官房学

官房学の概要

官房学（かんぼうがく、独: Kameralwissenschaft）は、17世紀から18世紀にかけてドイツで発展した専門的な学問分野であり、経済学や行政学の基礎を形成した重要な思想体系です。この学問は、時として官房主義（独: Kameralismus）とも呼ばれ、君主の国庫を豊かにするための技術や方法論を追求しました。

学問の対象と背景

「官房」という用語は、ラテン語の「camera」（部屋や国庫）に由来し、当時のドイツでは領邦議会を指していました。ヴェストファーレン条約以降、神聖ローマ帝国の崩壊により、各領邦は独自に政治的・経済的自立を求めざるを得ず、君主の財政を支えるための効果的な管理と運営が求められました。このため、各国の経済管理や行政の重要な原則をまとめることが官房学の役割となりました。

これにより、経済学、財政学、さらには経世論や政策論に広がる枠組みを持つ学問へと進化しました。官房学者（カメラリスト）は、国の繁栄に関する政策や技術を体系化することで、重商主義的経済理論に従った思想を形成しました。具体的には、税金、富の源、商業、農業などに関する専門的な知識が必要とされました。

啓蒙時代の官房学

18世紀になると、啓蒙専制君主の時代が到来し、君主たちは「公共の福祉」を重視するようになりました。これに伴い、官房学者們も幸福主義の理念に基づく政策を進め、国家の社会へのさまざまな干渉をもっと重視するようになりました。この概念は「ポリツァイ」として知られ、広義の福祉行政をも含みます。要するに、福祉国家は「警察国家」の延長線上にあり、国家の役割がより社会貢献的であることが望まれました。

官房学の歴史

官房学は、1727年にハレ大学とフランクフルト大学に官房学の講座が設けられることによって、この学問の先駆けとなりました。これにより、官房学は二つの時期に分類されます。

前期官房学

前期には、領邦君主に対する具体的な政策提言を中心に取り扱い、その根拠を王権神授説や神学においていました。このため、理論的な体系が曖昧で、経済学や財政学との混同が多かったのが特色です。この時期の代表的な学者には、ファイト・ルートヴィヒ・フォン・ゼッケンドルフやJ.J.ベッヒャーがいます。

後期官房学

後期では官房学の体系化がさらに進み、大学での教科書が執筆されるようになりました。内容も広範で、ポリツァイ学の創始を目指しつつ理論的な基盤設計がなされました。このころの学者にはヨハン・ハインリヒ・ゴットロープ・ユスティやヨーゼフ・フォン・ゾネンフェルスが名を連ねています。

衰退とその後の影響

18世紀の盛況期を経て、官房学は19世紀に市民革命の影響で衰退していきます。絶対君主制から立憲君主制への移行が進む中で、ドイツ公法学が台頭し、官房学の影響力は薄れていきました。しかし、明治時代の日本においては、ドイツの学者たちが招待され、官房学の考え方が間接的に日本の近代思想に影響を与えました。

結論

官房学はその歴史を通じて、国家の財政や経済の運営を理論化し、政治と経済の関係を深く考察するきっかけを作りました。この学問は、今日の行政学や経済学に多大な影響を与える基盤となったのです。

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