官文庫

官文庫（かんぶんこ）は、平安時代以来、代々官務を世襲してきた小槻氏の嫡流、壬生官務家の文庫を指します。官庫、あるいは官務文庫とも呼ばれていました。

概要

太政官には、宣旨や太政官符の案文、公事に関する記録などを保管する文殿（官文殿）が存在し、史が管理していました。平安時代中期以降、小槻氏が史の筆頭である官務（大夫史）を世襲するようになると、歴代当主が官務と文殿別当を兼任するようになります。その結果、太政官の文殿で保管されるべき文書や記録の一部が、小槻氏の文庫にも納められるようになりました。

天養元年（1144年）には、当時の官務であった小槻政重が、自家の文庫に保管されている官文書について、「家を継いで奉公する者が厳重に相伝進退すべきこと」とする起請文を作成し、官文書の保管と継承を子孫の義務として課しました。

鎌倉時代の嘉禄2年（1226年）に発生した火災で官文殿が焼失すると、再建されることはありませんでした。そのため、官文殿の機能は小槻氏の文庫や院文殿などに移されることになります。太政官関連の文書・記録は全て小槻氏の文庫に納められたため、特に「官文庫」と称されるようになり、「凡官文庫之儀者、全非私文庫、官文殿断絶之後、以官文庫被准官文庫（官文庫の儀は全く私文庫にあらず、官文庫断絶の後、官文庫を以て官文殿に準ぜらる）」と言われるようになりました。

鎌倉時代初めに小槻氏は壬生家と大宮家の2家に分裂しましたが、官文殿廃絶後は、両家の官文庫に納められた文書が「公務之明鏡」として尊重されました。朝廷及び幕府は、本来は小槻氏の所有である官文庫の維持・警固を重要視し、官文殿が存続していた永万元年（1165年）の段階で、官文庫の新造のための経費が朝廷より支給されたり、室町幕府が官文庫の修繕のために段銭を徴収した例もありました。

特に応仁の乱の際に、大宮家の官文庫が疎開先の平等院で紛失・散逸する事件が発生し、続く大寧寺の変によって大宮家自体が断絶してしまいます。そのため、唯一の官務家となった壬生家の官文庫は一層尊重されることになりました。応仁の乱後に壬生家による官文庫の維持が困難になりかけた延徳2年（1490年）には、宗祇が官務壬生晴富に1000疋を寄附するなど、有志の有徳者が寄附を寄せて維持されたこともありました。その後、江戸幕府は再び朝廷とともに官文庫の維持に尽力したため、幕末までその所蔵文書は厳重に保管されていました。

応仁の乱直後の明応5年（1496年）に壬生晴富が残した文書によれば、当時の官文庫は松原通を南限、壬生寺東門前を西限とする方4町の地に設置され、面5ヶ間・奥3ヶ間の広間に1000余合の文書が所蔵されていたと伝えられています。

明治維新後、所蔵文書類は宮内省に献上され、現在も宮内庁書陵部に保管されており、『図書寮叢刊壬生家文書』として刊行も行われています。

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