定宗 (朝鮮王)

李氏朝鮮の第2代国王、定宗は、恭愍王7年（1357年）7月18日に太祖李成桂とその正室、神懿王后韓氏の間に次男として生まれました。諱は当初、芳果（パングァ）と称し、後に曔（キョン）と改められました。字は光遠（クァンウォン）。国王となる前は永安君（ヨンアングン）として知られていました。

定宗は温和な性格ながらも勇猛さを兼ね備え、優れた知略の持ち主でもありました。高麗王朝末期には、父である李成桂に従い、数々の戦場で功績を立てました。李成桂が朝鮮を建国し初代国王太祖となると、李芳果は永安君に冊封されました。

しかし、彼の運命は太祖7年（1398年）に大きく動きます。同年8月、太祖の五男である靖安君李芳遠（後の太宗）が主導した第一次王子の乱が発生。この政変の後、李芳果は王世子に冊立されることになります。本来、王位に就く意思が薄かった彼は、世子となることを再三にわたり辞退しました。しかし、既に長男である鎮安君李芳雨が死去しており、さらにこの時期に国内の権力を掌握していた李芳遠からの強い要求があったため、やむなく王世子を受け入れました。

世子冊立からわずか一ヶ月後の同年9月、太祖からの譲位を受けて朝鮮国王として即位します。彼には側室との間に多くの庶子がいましたが、正室である定安王后金氏との間に嫡男がいなかったことは、実弟であり有力な後継者候補であった李芳遠にとって有利な状況でした。定宗が国王として在位した約2年間は、終始、弟である李芳遠の強い影響下に置かれていました。

彼の治世中には、李芳遠の意向に基づき、権力者たちが私的に保有していた兵力を解体し、軍事権を国家の最高機関である義興三軍府に集中させる政策が実施されました。また、王子の乱が漢陽の運気に原因があるとする説を聞き入れ、首都を漢陽から再び開京へと戻す遷都も行われました。

しかし、1400年に第二次王子の乱が勃発すると、定宗は事態を収拾するため、弟である李芳遠を王世弟（国王の弟である王位継承者）に冊封します。そして、その9ヶ月後の同年11月13日、王世弟に王位を譲り、自身は上王として一線から退きました。この激動期において、権力の中心である国王の座を降りることが、自らの命を保つための唯一の道だと考えたためでした。

上王となった定宗は、仁徳宮において悠々自適な隠遁生活を送りました。撃毬や狩猟、温泉、そして宴会などの娯楽を楽しみながら穏やかな晩年を過ごし、世宗元年（1419年）9月26日、63歳で薨去しました。御陵は開城に位置する厚陵です。

わずか2年という短い治世であり、その期間中にほとんど実権を伴わなかったことから、朝鮮王朝初期においては定宗はあくまで過渡期の執権者と見なされ、「恭靖大王」という呼称が用いられました。しかし、彼が薨去してから262年後の粛宗7年（1681年）12月に至り、改めて「定宗」という廟号が贈られることとなりました。

家系については、父は初代国王の太祖李成桂、母は神懿王后韓氏です。兄弟には長兄の鎮安大君李芳雨、弟には第3代国王となる太宗李芳遠らがいます。正室は定安王后金氏ですが、子女はありませんでした。後宮には誠嬪池氏、淑儀奇氏、淑儀文氏、淑儀尹氏、嘉懿宮主柳氏らがおり、彼らとの間に義平君李元生や順平君李羣生をはじめとする多くの庶子と庶女を儲けました。

定宗は、その生涯や治世が朝鮮王朝草創期の激動と深く関わっているため、後世の様々な作品にも登場しています。例えば、朴鍾和の小説『世宗大王』や、近年では『龍の涙』、『太宗イ・バンウォン』といったテレビドラマで描かれています。

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