定朝

平安時代後期の巨匠仏師：定朝

定朝（じょうちょう、生年不明-天喜5年8月1日(1057年9月2日)）は、平安時代後期を代表する仏師です。寄木造という高度な技法を完成させたことで知られ、その作風は後の仏像彫刻に多大な影響を与えました。

華麗なる経歴と大規模な工房

仏師康尚の子として生まれた定朝は、治安2年（1022年）、藤原道長が創建した法成寺金堂・五大堂の造仏に携わりました。その優れた技量により、仏師として初めて法橋の位を授けられました。これは前例のないことで、道長も当初はためらったものの、藤原実資の助言を受けて叙位に至ったと伝えられています。

定朝の工房は、当時の仏師集団としては非常に大規模なものでした。万寿3年（1026年）には、中宮威子の御産祈祷のために造られた27体の等身仏の制作に、何と125人もの仏師が動員されたという記録が残っています。この規模からも、定朝がいかに優れた仏師として広く認められていたかがわかります。晩年となる天喜2年（1054年）に制作された京都西院の邦恒朝臣堂の丈六阿弥陀如来坐像は、当時の貴族たちから「尊容満月のごとし」と絶賛されるなど、その高い評価は揺るぎないものでした。

平安貴族を魅了した唯一無二の作風

定朝は数多くの仏像を制作したと伝えられていますが、現存する確実な遺作として認められているのは、平等院鳳凰堂の本尊である木造阿弥陀如来坐像（国宝）のみです。この阿弥陀如来像は、柔らかな曲線と面で構成された優美な造形が特徴です。浅く平行して流れる衣文、瞑想的でありながら穏やかな表情は、それまでの仏像彫刻とは一線を画すものでした。一木造特有の重みや物質感を排し、柔和で優美な表現は、平安貴族の美的感覚に合致し、「仏の本様」とまで称賛されました。

定朝は、天平時代の古典彫刻を学びつつ、寄木造や内刳りといった新しい技法を取り入れることで、独自の作風を確立しました。しかし、定朝の作風を模倣した「定朝様」と呼ばれる様式は、やがて形式化へと堕していったのに対し、平等院の阿弥陀如来像は、その傑作たる所以を今もなお輝き続けています。

定朝の系譜とその後世への影響

定朝没後、その技と名は息子の覚助や弟子の長勢らによって受け継がれ、院派、慶派、円派といった異なる仏師集団が生まれました。また、僧綱位の授与は、定朝の子弟に限定される慣習となり、その影響力は絶大なものとなりました。

定朝様は、12世紀まで仏像彫刻の規範として君臨し続けました。貴族たちはこぞって定朝仏を好み、仏師たちはその模倣に励みました。当時の記録には、貴族が仏師の工房を訪れ、製作中の仏像を定朝仏と比較しながら細かい注文をつける様子などが記されています。定朝の作風は、時代を超えて仏像彫刻の歴史に深く刻まれたのです。定朝は光孝源氏の流れを汲む名家出身でもありました。

参考文献

京都国立博物館編集 『院政期の仏像 ─定朝から運慶へ─』 岩波書店、1992年
伊東史朗 『日本の美術458 平安時代後期の彫刻 信仰と美の調和』 至文堂、2004年
* 根立研介 「定朝をめぐるニ、三の問題─僧綱位授与の問題を中心にして─」（平等院ミュージアム鳳翔館編集『鳳翔学叢』第4輯、宗教法人平等院発行、2008年3月）

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