実忠

実忠について

実忠（じっちゅう）は、奈良時代に活躍した僧侶であり、神亀3年（726年）に生まれました。彼は良弁の教えを受けて、華厳の教えを学びました。実忠は、東大寺の十一面悔過（けかえ）の創始者として知られています。これは、752年（天平勝宝4年）2月1日から14日間にわたり、二月堂で行われた重要な儀式です。彼の発案により、この行事は現在に至るまで続けられています。

760年には目代に就任し、東大寺の発展に寄与しました。彼は、奈良の西大寺や西隆寺の造営に関わり、また東大寺大仏の光背の造作や大仏殿の歩廊の修理も手掛けました。さらに、百万塔を収める小塔殿や頭塔の建設にも関与しました。767年（神護景雲元年）には、光明皇后から一切経を受け取り、如意法堂を建立して納めることとなります。そして、春秋の期間に行われる一切経悔過の開始にも貢献しました。

実忠は東大寺の実務において大いに活躍し、少鎮・三綱の寺主、上座、造寺所知事などの職を歴任しました。このように、彼は東大寺の運営において欠かせない存在となったのです。晩年には、790年（延暦9年）から815年（弘仁6年）の間に2回、華厳経の大学頭に就き、華厳教学の充実に尽力しました。また、809年（大同4年）には修二会参籠を終えました。

彼の著作には、『東大寺権別当実忠二十九ヶ条』があります。この作品は、彼が生涯を通じて関与した事業を記したものです。特に、東大寺における彼の役割を知る上で非常に重要な資料となっています。

伝説

実忠には、特に『二月堂縁起絵巻』に記された伝説があります。この絵巻は、1545年に描かれたもので、天平勝宝3年（751年）に実忠が笠置山で修行をしていた際の出来事を伝えています。実忠が竜穴に入ったところ、天界（兜率天）に到達しました。そこで、天人たちが常念観音院において十一面観音の悔過を行っているのを見て、彼自身も地上でこの儀式を行いたいと願ったとされています。

この伝説によると、兜率天では一日が人間界の約400年に相当するため、追いつくことができないと天人の一人から告げられました。それでも、実忠は少しでもペースを合わせようと心掛け、激しく行を行いました。やがて、2月5日の夜には、十一面悔過の最中に二月堂内陣須弥壇の下に消えてしまったと伝えられています。

このように、実忠の生涯と業績は、東大寺の発展に多大な影響を与えただけでなく、彼が遺した伝説は、今なお人々の信仰の対象として親しまれています。彼の存在は、奈良時代における仏教文化の豊かさを物語る重要な一因となっています。

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