実質臓器

実質臓器（じっしつぞうき）

実質臓器（じっしつぞうき、英：solid organs）とは、医学、特に病理診断の分野で臓器の構造を説明する際に用いられる解剖学的な用語です。この名称は、臓器の内部が細胞や組織で密に満たされており、中身が詰まった状態、すなわち「充実性」であるという特徴に基づいています。充実性臓器（じゅうじつせいぞうき）や固形臓器（こけいぞうき）といった別の呼び方で称されることもあり、これらはいずれもその構造的な性質を表しています。

身体の臓器には様々な形状がありますが、実質臓器と対比されるのが管腔臓器（かんくうぞうき）です。管腔臓器とは、胃や腸、血管、気管など、その内部が管状になっており、空洞や空間を持っている臓器を指します。実質臓器は、このような管腔を持たず、臓器全体が細胞や組織によって占められている構造的な特徴を持ちます。

肉眼的に実質臓器を観察する場合、その形態的な特徴が比較的明確です。臓器としての輪郭がはっきりしており、個別の臓器として認識しやすいのが一般的です。そして、実質臓器の最も決定的な特徴は、臓器を切開した際の断面（割面）が、中身が詰まった固形の状態であることです。病理診断では、この割面の外観や、さらに詳細な組織構造を顕微鏡で観察することが、病変の正確な評価や診断のために極めて重要となります。

実質臓器に分類される臓器は、身体の機能において中心的な役割を担うものが多く、様々な器官系統に属しています。代表的なものを系統別に見てみましょう。

中枢神経系

脳や脊髄は、神経組織が密に集合した高密度な構造体であり、大脳、小脳、脳幹部などが実質臓器として含まれます。これらの臓器は、無数の神経細胞とそのネットワークが複雑に絡み合い、内部は文字通り充実しています。

内分泌腺

ホルモンを産生し、血流に乗せて全身に送る腺組織も実質臓器です。下垂体、甲状腺、副腎などがこれにあたります。これらの腺は、ホルモン産生細胞が集合して密な組織を形成しています。

消化器

消化・吸収に関わる臓器のうち、分泌機能を持つ腺性の臓器などが実質臓器に含まれます。唾液を分泌する唾液腺（耳下腺、顎下腺など）、消化酵素やホルモンを分泌する膵臓、そして代謝の中心的な役割を果たす肝臓などが挙げられます。これらの臓器は、特定の物質を生産・貯蔵する細胞が詰まった構造をしています。

尿路生殖器

尿の生成や生殖に関わる重要な臓器の一部も実質臓器です。血液から尿を生成する腎臓や、生殖細胞（卵子・精子）や性ホルモンを産生する性腺（卵巣、睾丸）が含まれます。腎臓内部にはネフロンなどの機能単位が密に詰まり、性腺も細胞が充実しています。

免疫器官

身体の免疫反応を担う臓器も実質臓器に含まれます。リンパ球の成熟や免疫応答に関わる胸腺、古くなった赤血球の破壊や免疫応答に関わる脾臓、そして全身に分布するリンパ節などが該当します。これらの臓器は、リンパ組織や免疫細胞が密集した構造を持っています。

骨格・運動器

身体を支え、運動を可能にする骨や筋肉も、組織が密に詰まった実質臓器と見なされます。骨は骨細胞と石灰化基質が密に詰まり、横紋筋（骨格筋や心筋）は筋細胞が整然と並んで充実した構造を形成しています。

感覚器

外部からの刺激を受容する器官の一部も実質臓器として捉えられます。視覚に関わる眼球などがその例です。眼球はその内部に様々な組織や細胞が密に詰まった複雑な構造を持っています。

これらのように、実質臓器は機能的な多様性を持ちながらも、その基本的な構造として細胞や組織が密に詰まっているという共通点があります。病理学的な診断において、実質臓器に発生した病変の性状や広がりを評価する際には、この「充実性」という構造的特徴に基づいた観察が重要な出発点となります。実質臓器と管腔臓器という分類は、臓器の病態を理解し、記述するための基礎的な枠組みとして広く用いられています。

もう一度検索