実録・ベトナム戦争残虐史

1975年6月21日に封切られた日本のドキュメンタリー映画『実録・ベトナム戦争残虐史』は、製作をゼネラル・ワーク、配給を東映洋画が手掛けたパートカラー作品である。この映画の監督を務めたのは、刺激的な記録映画で知られ、“日本のヤコペッティ”とも称された井出昭である。

井出監督は、1964年から実に約20年以上にわたり、戦禍に見舞われたベトナムに足繁く通い、自らカメラを回し続けた。その膨大な撮影フィルムは約100時間にも及んだという。本作は、この監督が現場で捉えた映像に、ベトナム解放戦線や北ベトナム側から提供されたフィルムを加えて編集されており、ベトナム戦争の全体像を網羅的に描き出す総集編的な内容となっている。

公開時の上映形態には紆余曲折があった。当初は深作欣二監督、北大路欣也主演の『資金源強奪』との二本立てで公開される予定であり、上映時間も60分が想定されていた。しかし、その後、三東ルシア主演、小平裕監督の『青い性』が加わり三本立てでの上映に変更されたため、本作の上映時間は45分へと短縮されることとなった。なお、これとは別に90分バージョンも存在し、こちらは対仏戦争終結からアメリカの介入までを「第一部」、アメリカの本格介入による北爆や「皆殺し戦争」を「第二部」、北ベトナムと解放軍の活動を「第三部」、そしてサイゴン解放を「第四部」とする構成であった。

特に、ベトナム戦争の終結を象徴する出来事である1975年4月30日のサイゴン解放は、井出監督にとって特別な意味を持っていた。監督は「自分の目で最後を見届けたい」という強い思いから、解放の一週間も前からカメラマンの金沢信二郎と共に現地入りしていた。しかし、サイゴン解放後、混乱の中でサイゴンからの脱出が困難となり、一時は日本国内で消息不明と報じられる事態となった。その間も監督は約1ヶ月にわたりカメラを回し続けたという。

無事日本への帰国を果たした後、井出監督はベトナムでの体験と本作への思いについて語っている。「妙なものですねえ。取材中、あまりの苦しさに二度とベトナムへは来ないぞ、と思いながら、気になってまた飛んで行く。そして苦しむ。ベトナムの虜になった11年間でした」と、ベトナムとの関わりが苦しくも離れがたいものであったことを吐露した上で、「最後はあーこれでベトナム戦争は終わったなという実感がありました。映画はそんな私のベトナム報告書です。私も解放され、吹っ切れたというのが現在のいつわらざる心境です」と、本作が自身にとっての「ベトナム報告書」であり、完成によって自らもベトナムから解放されたという心境を述べている。映画は、このサイゴン解放からわずか2ヶ月後に公開されている。

本作のスタッフには、製作・監督・構成の井出昭のほか、撮影に井出監督自身と大須賀武、脚本に金沢信二郎、音楽に金沢信二郎と上村竜一が名を連ねている。

公開された本作に対する評価は厳しいものもあった。『週刊新潮』誌上では、「何と迫力のないこと！この映画は今のベトナムのあるがままを知りたいという渇望を満たしてくれない。ただひたすら商売のために封切った東映の思惑は外れて、劇場内はガラガラでした」といった否定的な評が掲載されている。

本作は、前述の通り、公開時には『資金源強奪』、そして『青い性』と同時上映された。

『資金源強奪』は、北大路欣也主演、深作欣二監督、高田宏治脚本による作品。『青い性』は、三東ルシア主演、小平裕監督による作品である。

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