青い性

1975年 6月21日に封切られた『青い性』は、三東ルシアと鹿間ケイをダブル主演に据えた東映の青春映画です。監督は、13年間にわたり助監督を務めた小平裕にとって記念すべき第一回監督作品となりました。東映東京撮影所で製作され、同社の配給で公開されたこの映画は、連休を利用して家出をした二人の高校生が湘南の海岸を舞台に繰り広げる、恋と冒険、そして青春の挫折を描いた現代版「太陽の季節」と評されました。

当時の東映は、池玲子や杉本美樹といった女優陣によるスケバン映画に代表される不良高校生路線が主流でしたが、本作はそうした既存の枠とは異なり、一般的な家庭に育った16歳の少年少女の性的な行動に焦点を当てていました。公開時には、『新幹線大爆破』の併映作品として上映されました。

製作の背景

本作の製作は、1970年代半ばにおける東映の製作方針転換を象徴する出来事の一つです。1974年、当時の岡田茂東映社長は、10代の観客層が興行に大きな影響力を持つようになったと判断し、「19歳以下を取り込め！」という明確な目標を掲げ、1975年の製作ラインアップにおけるヤング向け映画への注力を発表しました。この背景には、1975年の正月映画として公開された、当時16歳だった山口百恵主演の『伊豆の踊子』（東宝）が予想外の大ヒットを記録したことや、東映所属のタレントで当時19歳の志穂美悦子の人気が急上昇していたことがありました。岡田社長の「女性映画を作りたい」という方針も相まって、1975年上半期は、テレビで人気の若い歌手やタレントを起用し、従来の東映らしい作品をメインとしつつ、併映作品には10代向けの「青春路線」を据える編成が決定されました。

1975年4月7日には、東映本社で本作にも出演する星正人の主演第一作『青春讃歌暴力学園大革命』の製作発表会見が開かれ、この場で岡田社長は改めて「この映画は東映の若い観客層拡大を狙う新路線だ。今後は、二本立てのうち一本は19歳以下の若い層むきの映画を作りたい」と宣言しました。そして1975年5月、本作が正式に「ヤングシリーズ」の第一弾として製作発表されました。当時「実録路線」が主軸だった東映にあって、この新たな試みはユニークな新路線として注目を集めました。この時点での発表では、主役は星正人、三東ルシア、鹿間ケイの3名とされていました。小平裕監督は、本作への意気込みとして、「若い人たちの意味のない行動の中に、青春の純粋さを描きたい」「今の若い世代のセンスはサイクルが早い。これに遅れないようにするには、若い映画を作らねばならない」と語り、「ヤング東映」路線の牽引役として期待されていました。

脚本開発を巡るエピソード

監督の小平は、当初、よりハードなタッチの青春映画を構想していました。少女が海に入っていくと、その下を潜水艦が通り過ぎて爆発するというような、連合赤軍批判といったテーマ性も含む脚本を執筆し、岡田茂社長に提出しました。しかし、岡田社長はこの脚本を最初の数ページ読んだだけで「なんや、これは！」と一喝し、ゴミ箱に放り込んだといいます。クランクイン直前に脚本を却下され、製作中止の危機に瀕した小平監督は、わずか3日間で全く新しい物語を書き上げ、無事クランクインにこぎつけました。岡田社長は東映作品の全ての脚本に目を通し、長年の経験と独自の感性で製作の可否を判断していたと語っています。脚本家の掛札昌裕は、社長の前で脚本を読み上げてプレゼンしていた当時の状況を振り返り、「読むのがうまい人はOKになっちゃったりするんですよ(笑)」と証言しており、岡田社長が頭だけ読んで捨てたというのは、その中でも最短の判断記録だったのかもしれません。

キャスティングの意図

主演の一人である三東ルシアは、1974年にグリコペロティチョコレートのCMに出演し、翌1975年1月から放映された大林宣彦演出の東陶機器（TOTO）ホーローバスのCM「お魚になったワ･タ･シ」で二代目のCMキャラクターに起用され、ヌードを披露して注目を集めていました。また、1975年3月にはコロムビアからシングル「危険な春」で歌手デビューも果たしており、16歳という年齢ながら、セクシーな魅力で歌い踊るアイドルとして、ヤング層からの人気を高めていました。

岡田社長は「生もの」を好むことで知られ、時代の「旬」や「流行」を重視し、作品の題材にするよう現場に指示していました。三東ルシアと鹿間ケイが、当時人気のアイドルグループ「花の高二トリオ」（森昌子、桜田淳子、山口百恵）のメンバーと同い年の16歳であったことから、東宝が製作した『花の高2トリオ初恋時代』に対抗する意図もあり、東映が得意とする「不良性感度」を前面に出して勝負するため、二人が初主演に抜擢されました。鹿間は「『エマニエル夫人』3回も見ちゃった。私は18歳で結婚してこども産むんだから」と奔放に語り、一方の三東は「山口百恵なんてカマトトでしょ。ゼーンゼン興味ない」と、「花の高二トリオ」への対抗意識を露わにしていました。映画評論家の寺脇研は、三東が「心も体も不安定な女子高校生」を見事に演じ、「"しらけの時代"と呼ばれる当時の少女像を鮮やかに描き出した」と評価しています。また、星正人は、東映が一押しの新人男優として売り出しを図っていました。

撮影現場での一幕

本作は1975年5月後半にクランクインしました。同年5月31日には、神奈川県三浦半島の油壺沖約1時間のヨット上で撮影が行われました。高校2年生役の鹿間ケイが、魅力的な大学生を誘惑するシーンの撮影中、小平監督は鹿間にヌードになるよう指示しましたが、鹿間はこれを拒否し、現場で揉め事となりました。前日に行われた海岸での暴行シーンでは、ヌードでの演技に同意していたにも関わらず、翌日になって急に態度が変わったことで、企画部長の天尾完次までが説得に当たる事態となり、撮影は難航しました。組合活動家でもあった小平監督は、「映画は観念性を持っていると思う」「組合でいろいろ闘ってた部分があるから、それは（映画に）投影している」と自身の映画観について語っています。

作品の評価とソフト化

『青い性』は、メインの併映作品であった『資金源強奪』の主演・北大路欣也が「お客は入らなかった」と証言しているように、興行成績は振るいませんでした。『映画年鑑』でも、「〈青春もの〉『青春讃歌暴力学園大革命』『青い性』は失敗した」とはっきりと記されています。

作品は現在、東映チャンネルで頻繁に放送されていますが、ソフト化は一度もされていません。これは、東映が過去に未成年者のヌード描写を巡ってトラブルを起こした経緯があるため、それに関連する作品のソフト化を控えているためだとされています。

同時上映

『資金源強奪』（主演：北大路欣也 / 監督：深作欣二 / 脚本：高田宏治）
『実録・ベトナム戦争残虐史』（構成：井出昭）

スタッフ

監督・脚本：小平裕
企画：太田浩児
撮影：仲沢半次郎
音楽：八木正生
美術：北川弘
録音：内田陽造
照明：大野忠三郎
編集：祖田富美夫
助監督：馬場昭格

キャスト

進藤亜木：三東ルシア
真山美根子：鹿間ケイ
山室浩一：山本紀彦
八代香：風間千代子
メリー・フォーク：梅田智子
健：富岡普
進藤春彦：小松方正
進藤菊江：中原早苗
進藤昇：岩淵英二
真山久美子：絵沢萠子
三枝：曽根晴美
洋品店々員：小林千枝
女子大生：渚リール、木島あかね
女子高生：星野みどり
刑事：室田日出男
神野明：佐藤允
佐久間大助：星正人

『青い性』は、東映が当時の若者文化や性への関心に応えようとした実験的な一本であり、商業的には成功しなかったものの、1970年代日本の青春映画の一断面を示す作品として位置づけられます。

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