宣伝中隊

宣伝中隊（Propagandakompanie, PK）

宣伝中隊、または宣伝部隊は、1933年から1945年までのナチス・ドイツ体制下において、ドイツ国防軍と武装親衛隊に設置されていた特殊な部隊でした。彼らの主な任務は、ドイツ国民および敵対国に対して、プロパガンダ活動を展開することにありました。

設立と組織の変遷

宣伝部隊の始まりは、1938年初頭に国防軍最高司令部（OKW）総長ヴィルヘルム・カイテルと国民啓蒙・宣伝省（RMVP）大臣ヨーゼフ・ゲッベルスの間で締結された「戦時宣伝の実施に関する合意書」に遡ります。この合意に基づき、OKW傘下の部隊が戦時プロパガンダに必要な素材をRMVPに提供する一方、実際のプロパガンダの実行は総統から権限を与えられたRMVPが中心となって担うことが定められました。当初、この取り決めに沿って5個の宣伝中隊が編成されました。これらの部隊は当初通信隊の一部とされていましたが、1942年10月14日には独立した兵科としての地位を与えられ、独自の兵科色であるライトグレーが定められました。

宣伝部隊は、OKW内に設置された国防軍宣伝局（Amtsgruppe für Wehrmachtspropaganda, WPr）によって統括されました。この組織は1939年4月に国防軍情報部の下に設置された国防軍宣伝部が発展したもので、1939年夏頃からは作戦部長の直轄となり、1942年にはヴェーデル大佐を新たな指揮官に迎え、規模と権限が大幅に強化されました。国防軍宣伝局は当初WPr IからWPr IVまでの4つのグループに分かれ、それぞれ運用指揮、国内宣伝、海軍宣伝・検閲、対外宣伝を担当しました。1940年1月には、陸軍宣伝を担うWPr Vと空軍宣伝を担うWPr VIが追加されました。WPr Vは心理戦の専門家であるクルト・ヘッセ中佐が率いていましたが、独自の宣伝展開を試みたことからRMVPとの間に摩擦が生じることもありました。

部隊の拡大と活動内容

戦争が進行するにつれて宣伝部隊の規模は急速に拡大し、1942年末には約15,000名に達し、これは師団に匹敵する規模でした。この多数の隊員によって、21個の軍宣伝中隊、8個の空軍宣伝中隊、3個の海軍宣伝大隊、1個の独立海軍宣伝中隊、8個の占領地宣伝大隊、1個の武装親衛隊宣伝大隊、そして特殊な心理戦を担当する特別宣伝大隊などが編成されました。彼らの活動は膨大な量の記録を生み出し、最終的に約8万語に及ぶ戦争報道と200万点以上の写真が作成されました。特に重要視された任務の一つに、劇場で上映されるニュース映画『ドイツ週間ニュース』の制作がありました。また、大ドイツ放送局による毎年恒例のクリスマス中継放送も、宣伝部隊の協力によって実現していました。

宣伝部隊の活動と編成は、1943年にOKWとRMVP国防課が共同で策定した「宣伝中隊野戦教範」によって詳細に定められていました。彼らは軍上級司令部（AOK）の指揮下に入り、作戦区域でのプロパガンダ活動や戦況の確認を行い、収集した情報をRMVPに報告して対敵宣伝に活用しました。また、必要に応じて戦闘に参加し、物資輸送部隊を利用して宣伝材料を後方へ送ることも任務に含まれており、その際には士官による軍事的観点からの検閲が義務付けられていました。

ドイツ国防軍の快進撃が停止した1941年冬から1942年にかけて、宣伝部隊の活動内容は大きな転換点を迎えました。それ以降は、「能動的宣伝」や「戦闘宣伝」と呼ばれる、敵軍の士気を低下させることを目的とした活動に重点が置かれるようになりました。しかし、こうした敵対的なプロパガンダは以前から行われており、1940年初頭には前線の隊員が「人種的に優位な」ドイツ兵と敵兵を対比する記事を執筆したり、1940年代前半にはフランスで捕虜となったフランス兵を取材してフランス軍の弱体化を強調する記事が書かれたりしていました。1941年7月に制作されたニュース映画には、ロシア人捕虜を陳腐な風刺を交えて描写したものが見られます。さらに、ドイツのユダヤ人政策、特にゲットー設置の正当化を図る記事も多数作成されました。ワルシャワ・ゲットーに関する多くの報道は、ユダヤ人たちが正当な処遇を受けていると主張するものでした。その代表例として、1939年12月5日に新聞『ベルリン画報』に掲載されたPK隊員アルトゥール・グリムの記事がありましたが、これはゲットー住民が「卑劣な犯罪」を犯したとして逮捕されたと報じつつ、写真が後に「再現」されて撮影されたものであるなど、虚偽の内容を含んでいました。

主な編成部隊（一部）

多くの宣伝中隊が編成され、各戦線で活動しました。以下にその一部を挙げます。

第501宣伝中隊: 1939年編成、ポーランド戦、ロシア北部（レニングラード、クールラントなど）で活動。
第605装甲宣伝中隊: 1944年編成、終戦まで西部戦線で活動。
第606装甲宣伝中隊: 1944年秋編成、第6SS装甲軍麾下、アルデンヌ攻勢、ハンガリー・オーストリアで活動。
第612宣伝中隊: 1939年編成、ポーランド戦後、中央ロシア（ヴィテブスク、ワルシャワなど）、末期はベルリン方面で活動。
第621宣伝中隊: 1939年編成、ポーランド戦後、西部戦線（ダンケルク方面）、ロシア北部（ナルヴァ、レニングラード方面）、クールラントで活動。
第637宣伝中隊: 1939年編成、ポーランド戦後、西部戦線、ロシア南部（キエフ、ハリコフ、スターリングラード周辺）、末期はハンガリー・オーストリアで活動。
第649宣伝中隊: 1939年編成、ポーランド戦後、西部戦線、バルカン、クリミア（セヴァストポリ）、末期はドイツ南部で活動。
第666宣伝中隊: 1939年編成、西部戦線、ウクライナ、コーカサス、クリミア、スロバキア・ボヘミアで活動。
第670宣伝中隊: 1939年編成、西部戦線、ロシア南部（キエフ、クルスク）、末期は東プロイセンで活動。
第680宣伝中隊: 1941年編成、ラップランド、ノルウェーの山岳戦線で活動。
第689宣伝中隊: 1939年編成、ポーランド戦後、西部戦線、中央ロシア（ミンスク、スモレンスク方面）、末期は東プロイセンで活動。
第690宣伝中隊: 1940年編成、バルカン戦線で活動。

宣伝中隊は、戦場の現実をドイツ国民に伝える一方で、体制にとって都合の良い情報を選別・加工し、敵対国の士気を削ぐための情報戦を展開する重要な役割を担ったのです。

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