宮負定雄

宮負定雄：国学と農政、そして幽冥への探求

宮負定雄（みやおい やすお、1797年10月29日 - 1858年10月29日）は、江戸時代後期の国学者、農政家です。通称を佐平、雅号を亀齢道人と称しました。正しくは宮負佐平貞夫といいます。

放蕩から国学へ

下総国香取郡松沢村（現在の千葉県旭市）の名主の家に生まれた定雄は、若い頃は酒色に溺れ放蕩生活を送っていたため、勘当されたこともありました。しかし、後に深く反省し、父の勧めで国学者平田篤胤の門下に入り、国学の道へ進みます。1826年、29歳で篤胤の主宰する気吹舎に入門し、多くの門人を集めて下総における平田国学の中心人物として活躍しました。

農政家としての側面

国学の研究と並行して、定雄は農業にも強い関心を持ちました。自らの農耕経験に基づき、50種以上の作物の栽培法や製造法を記した技術書『農業要集』を1826年に刊行しました。また、1828年には『草木撰種記』を出版し、植物の雌雄を識別して優良な種子を選ぶことの重要性を説きました。これらの著作は、当時の農民にとって貴重な知識源となりました。

さらに、定雄は『国益本論』において、人口増加と生産労働の重要性を主張しました。堕胎の習慣を戒め、人々が労働に従事することで国が豊かになると考えたのです。その他にも、『農家暦』、『万物牡牝考』、『民家要術』など、農民の生活に密着した著作を多数残しました。

幽冥界への関心

定雄は、晩年になるにつれて幽冥界への関心を深めていきました。平田篤胤の影響を受け、神仙道や道教の玄学思想にも傾倒しました。篤胤の著書を筆写し、幽冥や農業の研究に没頭しました。また、紀州の神仙・島田幸安の存在を知り、その弟子である参澤宗哲と親交を深めました。幸安の口述を記録した『神界物語』全20巻には、定雄が後序を寄せています。

定雄は、奇石の収集家でもあり、多くの著作を残しましたが、その中には『幽現通話』や『奇談雑史』など、幽冥界に関する記述を含むものもあります。これらの著作から、定雄が単なる国学者や農政家ではなく、精神世界にも深い関心を抱いていたことが窺えます。

平田篤胤との出会い

定雄が平田塾に入門した頃、篤胤は50歳を迎えており、古史の神代巻解釈をほぼ完成させ、幽境や異界に関する研究も一段落していました。この時期は、篤胤が神仙思想や道教の玄学に関心を深めていた時期でもありました。定雄は、篤胤のカリスマ性に大きな影響を受け、その教えを深く信奉しました。篤胤は、定雄の熱意と見識を高く評価し、自著を出版する許可を与え、定雄は江戸を往来して篤胤の教えを学びました。定雄の幽冥界への関心は、この時期に培われたと考えられます。

参澤宗哲との交流

平田門下の参澤宗哲は、神仙道に深く傾倒しており、五岳図などの研究を行っていました。参澤は、篤胤の死後、紀州で塾を開き、古道とともに玄学を広めました。定雄は、参澤と交流を深め、神仙道に関する知識を共有しました。参澤は、定雄の著作に序文を寄せるなど、互いに強い信頼関係で結ばれていました。

杉山山人の肖像図

定雄は、平田塾に往く途中で、杉山山人の肖像図が掛かっているのを見つけ、それを購入して平田篤胤に届けました。この図は、幽冥界の存在を示唆するものであり、定雄の幽冥界への関心をさらに深めるきっかけとなりました。後に、定雄はこの肖像図を処分するように言われるものの、紛失してしまい、その真偽を確かめるために紀州を訪れることになります。そこで参澤宗哲と出会い、親交を深めることになります。

晩年と遺産

定雄は、農村の復興に尽力し、多くの著作を残しました。また、幽冥界への関心を持ち続け、独自の思想を形成しました。その生涯は、国学、農政、神仙道という三つの要素が複雑に絡み合ったものであり、多面的な人物であったと言えるでしょう。

定雄の著作は、当時の社会状況や人々の生活を知る上で貴重な資料であり、現在も高い評価を受けています。また、その思想は、後の思想家たちに大きな影響を与えました。定雄は、国学や農政の分野だけでなく、精神世界を探求した人物としても、後世に記憶されるべきでしょう。

主な著作

農業要集
草木撰種記
国益本論
農家暦
万物牡牝考
民家要術
神界物語後序
幽現通話
奇談雑史
天地開闢生殖一理考

これらの著作は、国学、農政、そして幽冥界という、宮負定雄の多岐にわたる関心を反映しています。

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