宮﨑勤

宮崎勤

宮崎勤（みやざき つとむ、1962年 - 2008年）は、日本のシリアルキラーであり、かつて死刑囚として収監されていた人物です。彼は、1988年から1989年にかけて東京都および埼玉県で発生した、幼い女児4人が犠牲となった連続誘拐殺人事件の犯人として知られています。

生い立ちと事件前

1962年8月21日、東京都西多摩郡五日市町（現あきる野市）に、地元紙を発行する事業を営む裕福な家庭の長男として生まれました。曽祖父や祖父が地域の政治家を務めるなど、地元では名家として知られていました。両親は共働きで多忙だったため、幼少期は主に住み込みの子守りや祖父に面倒を見てもらうことが多かったといいます。

幼い頃から、手のひらを上に向けることが難しい「両側先天性橈尺骨癒合症」という珍しい身体障害を抱えていました。医師からは手術の成功率が低いことや、日常生活に大きな支障がないことを理由に、積極的な治療は推奨されませんでした。両親も、障害者というレッテルを貼られることを懸念し、手術を見送ったとされています。この手の障害のため、幼稚園ではお遊戯などができず、周囲からからかわれても教師の適切な対応がなく、本人にとってはつらい経験だったと供述しています。父親は仕事にかかりきりで家庭を顧みず、母親は姑との関係が悪く、世間体を優先するあまり勤に愛情を注がなかったといわれています。

小学生時代は「怪獣博士」と呼ばれるほど怪獣に熱中し、成績は良好で特に算数が得意でした。中学生時代は陸上部や将棋部に所属し、通信教育で空手も学んでいます。

高校は自宅から遠い明治大学付属中野高校に進学しましたが、これは手の障害を気にしていたためとも考えられています。両親は英語教師になるためと誤解していました。高校では成績が振るわなくなり、希望していた系列大学への推薦入学は叶いませんでした。1981年に東京工芸大学短期大学部へ進学。この頃はパズルに没頭し、専門誌に作品を投稿したり、回答者として名前が掲載されたりしています。

短大卒業後、1983年4月に叔父の紹介で印刷会社に就職しましたが、勤務態度は悪く、評判も芳しくありませんでした。1986年3月に転勤を勧められたことを機に自己都合退職。その後数か月間は自室に引きこもる生活を送ります。家業を手伝うようになりますが、簡単な手伝いに留まりました。この頃、アニメの同人誌を発行しましたが、仲間との関係がうまくいかず、1号のみで終わっています。その後は多数のビデオサークルに参加し、アニメや特撮番組のビデオを収集・交換するようになりましたが、自ら鑑賞することはほとんどなかったとされます。

1988年5月に祖父が死去した後、同年8月から翌1989年6月にかけて一連の犯行に及んだとされています。

事件と裁判

1989年7月、女児へのわいせつ行為で現行犯逮捕され、同年9月に連続誘拐殺人事件の犯人として起訴されました。

公判中、宮崎は不可解な言動を繰り返しました。裁判中に怪獣の絵を描いたり、両親を「父の人」「母の人」と呼んだりしました。父親が自殺したことについて尋ねられると、「罰が当たったと思った」と述べています。一方で、母親とは定期的に面会し、漫画本などを差し入れてもらっていましたが、事件のことには関心を示さず、家族の近況にも無関心だったとされます。

獄中からの自己顕示欲も強く、1998年に手紙のインタビュー集を出版した理由について「もっと有名になりたいから」と述べ、「法廷は晴れの舞台だと思っている」「（手紙が来るのは）自分がヒーローだから」などと語っています。また、メディアに手紙を公開することを承諾するなど、自身の言動が裁判に不利益となることを理解していない様子が見られました。このため、母親は成年後見制度の申立てを検討しています。

月刊誌『創』の編集部とは長期間にわたり文通を続け、死刑制度への批判や、獄中での生活、読んだ漫画などについて多数の手紙を送りました。特に、日本の絞首刑を批判し、薬物注射による死刑導入を訴えていました。また、同時期に発生した別の事件の犯人が「第二の宮崎勤」を名乗りたいと発言したことに対し、手記で強く批判しています。

死刑執行

最高裁判所で死刑判決が確定した後、2008年6月17日、鳩山邦夫法務大臣の命令により、収監されていた東京拘置所で死刑が執行されました。45歳でした。

死刑確定から執行までの期間は2年4か月と、当時の平均期間（約8年）に比べて大幅に短いものでした。同日、他の拘置所でも計2人の死刑が執行されています。

宮崎は執行を冷静に受け入れたと伝えられています。母親は遺体との対面後、処置は拘置所に任せたとされ、遺骨は引き取り手がないまま法務省関連の納骨堂に納められたと報じられています。

当時の法務大臣であった鳩山邦夫は、退任後に自身が宮崎の死刑執行を検討するよう指示したことを明かしており、これは異例のこととして報じられました。執行直前に発生した秋葉原無差別殺傷事件との関連も指摘されましたが、関連を否定する見方もあります。

一方、アムネスティ・インターナショナル日本や、死刑廃止を目指す団体・議員連盟は、執行に対し抗議を表明しました。日本弁護士連合会も、短期間に多数の死刑執行が行われたとして、制度の見直しまで執行停止を求める声明を発表。宮崎の国選弁護人も、再審請求の準備を進めていた最中の執行に強く抗議する声明を出しています。

事件の社会への影響

宮崎の部屋から大量のビデオテープや漫画、雑誌が見つかったことから、事件は「オタク」や「ロリコン」といったサブカルチャーに対するネガティブなイメージを拡散させ、「オタクバッシング」と呼ばれる現象を引き起こしました。メディアでは、これらの趣味が事件に悪影響を与えたという論調が噴出しました。

また、稀に見る凶悪事件であったため、加害者である宮崎の家族や親族にも深刻な影響が及びました。事件後、宮崎家には嫌がらせの手紙が殺到し、「お前たちも死ね」といった脅迫も含まれていました。姉妹は結婚を破談にしたり、学校を自主退学せざるを得なくなったりしました。両親は一時離婚し、母親の旧姓で再婚しています。叔父や従兄弟たちも、勤めていた会社を辞職するなど、社会的な立場を失うことになりました。これらの出来事の背景には、週刊誌などによる個人情報の暴露があったとも言われます。

宮崎の父親は、息子が逮捕されてから約4年後、被害者遺族への賠償金を用意した後、多摩川にかかる橋から投身自殺しました。ジャーナリストの中には、この自殺を現実逃避であり、被害者家族を顧みない行為として批判する声もありました。また、父親が息子に私選弁護人をつけず、結果的に国費が使われることになった点や、「家庭における父親の不在」が事件の背景にある可能性についても言及されています。父親は生前、自分が非難されるのは当然だが、全く関係のない親族にまで被害が及んでいることに苦悩していると語っていました。

著書など

獄中から月刊誌『創』編集部との間で交わされた往復書簡が、『夢のなか』として出版されています。また、事件を基にした映画や再現ドラマが制作されており、複数の俳優が宮崎をモデルとした人物や宮崎自身を演じています。

この事件は、加害者の心理、家庭環境、社会的な孤立、そして事件が加害者家族や社会全体に与える影響について、多くの議論を呼ぶこととなりました。

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