宵闇眩燈草紙

『宵闇眩燈草紙』は、八房龍之助氏による日本の漫画作品で、メディアワークス刊『月刊コミック電撃大王』にて連載されました。全7巻で構成され、『仙木の果実』や『塊根の花』といった同氏の作品群と世界観を共有する、オカルト、ホラー、アクションが融合した作品となっています。タイトルの「眩燈」は「幻燈」と誤記されることもありますが、正しくは「眩燈」です。

舞台は、大正時代の日本を思わせる架空の場所です。もぐり医者の木下京太郎、荒事の達人である長谷川虎蔵、そして妖艶な古道具屋主人麻倉美津里を中心に物語は展開します。全編を通して、1話完結の短編と、複数のエピソードで構成される「寄群編」「シホイガン編」といった長編が交互に配置されています。初期はキャラクターの登場が作品ごとに独立していましたが、3巻以降は各エピソードが繋がり、全体を通してのストーリーが明らかになっていきます。

主要登場人物は、それぞれ個性的な能力や背景を持っています。

木下京太郎: 中肉中背で目立たない容姿の近眼の医者。血を見るのが苦手で、まともな医者になることを諦めています。美津里の古道具屋「眩桃館」で眼鏡を作ってもらったことがきっかけで、物語に深く関わっていくことになります。超常的な力を持たない、本作における数少ない「普通の人間」であり、その平凡さがかえって物語に独特の視点を与えています。性格は小心者で真面目ですが、自分の弱さに悩むことも少なくありません。物語が進むにつれて、医者としての腕は向上しますが、モグリ医者の立場は変わりません。

長谷川虎蔵: 京太郎の家に居候する隻眼の青年。年齢は40歳前後ですが、外見は20代後半に見えます。日本刀を自在に操り、方術にも精通する武闘派です。天狗の力を持ち、雷を操ったり、隠匿術や分身術といった忍術も使用します。女性には優しく、一見するとナイスガイですが、男尊女卑的な発言をすることも。物語終盤では、異形の存在を取り込み、巨大な右目と羽を生やした姿へと変貌を遂げます。その力は増しますが、同時に技の精度が低下するといったデメリットも背負うことになります。「シホイガン編」では、世界各地の異空間を塞ぐという大冒険を成し遂げています。

* 麻倉美津里: 古道具屋「眩桃館」の妖艶な女主人。年齢不詳で、謎めいた微笑みを浮かべています。因果律に通じており、直接的に干渉することは少ないものの、物語の裏で大きな影響力を行使する存在です。戦闘は行いませんが、ラスキンや虎蔵といった強者ですら敵わないほどの高い能力を秘めています。また、倫理観に欠けた行動や発言も多く、物語に混沌とした雰囲気をもたらしています。実は数百年生きている魔女であり、数々の知識と経験を持つ、本作におけるキーパーソンです。

その他にも、大陸マフィアの道士である馬呑吐、マフィアの女幹部である林潤花、京太郎の依頼人である大澤操とその従兄弟である大澤由貴彦、そして逃亡中の忍者である笹森房八とその妻ぬいなど、個性豊かな登場人物が多数登場し物語を彩ります。また、物語に大きく関わるアーノルド・ラスキンや、ジャック・S・カーライル、ジュヌビエーヴ・コトフォードといった『ジャック&ジュネ』シリーズからの登場人物も登場します。

本作は、インモラルで下品な描写も多く含まれており、いわゆる萌え漫画が多い『電撃大王』の中では異質な雰囲気を醸し出していました。喫煙シーンも頻繁に登場します。舞台は日本であると推測されますが、明確に示されていません。また、ボードゲーム、TRPG、特撮、古典文学、クトゥルフ神話といったサブカルチャー要素を多く取り入れています。特に「寄群編」はクトゥルフ神話の「インスマスの影」を、「シホイガン編」は架空の都市シホイガンを舞台にした物語を下敷きとしています。

物語は、いくつかの伏線が回収されたものの、あっさりとした幕切れを迎えます。単行本には収録されていない番外編「御負け 其乃参」も存在し、美津里が現代で活躍する様子が描かれています。

『宵闇眩燈草紙』は、独特の世界観と個性的なキャラクター、そして多様なサブカルチャー要素が融合した、魅力的な作品と言えるでしょう。

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