家プロジェクト

家プロジェクト：古民家をアート空間へ

香川県香川郡直島町の本村地区と犬島で展開される「家プロジェクト」は、古民家を改修し、現代美術のインスタレーション作品として生まれ変わらせる画期的なプロジェクトです。このプロジェクトは、ベネッセの福武總一郎氏の構想に基づき、直島におけるアート活動の一環として1997年に始まりました。

プロジェクトの背景

直島での展開

直島は、古くからの集落が残る場所で、特に本村地区には約300年前から続く古い町並みがあります。焼杉板張りの黒ずんだ古民家が立ち並ぶ風景は、独特の風情を醸し出していました。この地に、現代美術の要素を組み込むことで、新たな魅力が生まれています。

プロジェクトには、建築家の安藤忠雄氏をはじめ、宮島達男氏、内藤礼氏、杉本博司氏、ジェームズ・タレル氏など、国内外の著名なアーティストが参加しました。

福武總一郎氏は、父親の急逝により東京から岡山へ戻った際、都市と地方の環境の違いに直面しました。その経験から、自然や歴史を重視する思想が生まれ、それが直島でのプロジェクトにつながっていきました。福武氏は、「人間」が欠けた都市ではなく、自然と調和した場所を求めたのです。そして、社名を「ベネッセ」（「よく生きる」という意味）に変更するなど、この経験は彼の価値観に大きな影響を与えました。

直島での最初のプロジェクトは、父親の遺志を継ぎ、子供たちのためのキャンプ場を作ることでした。安藤忠雄氏との出会いを通じて、キャンプ場は1989年にオープン。その後、「現代美術と自然と歴史」の融合を目指す構想が固まり、1992年にはホテルと美術館を一体化させたベネッセハウスが完成しました。これは、過疎の島に現代美術を置くという、世界でも類を見ない試みでした。

福武氏の考えは、「アートが主張するのではなく、人間が主役であるべき」というものでした。アートは、自然や歴史が持つ良さを引き出す役割を果たすべきだと考えました。そして1997年、この思想が「家プロジェクト」として結実しました。このプロジェクトは、日本の文明史観に疑問を投げかけ、歴史の痕跡が薄れ、経済が目的化している状況に挑戦するものでした。直島町役場からの電話がきっかけで、本村地区の民家を譲り受け、廃屋の活用方法として現代アートとの融合を思いついたのです。

2004年には、クロード・モネ、ウォルター・デ・マリア、ジェームズ・タレルの作品を収めた地中美術館が開館し、直島のアートシーンはさらに発展しました。

犬島での展開

2010年には、犬島の集落で「日常の中の美しい風景や作品の向こうに広がる身近な自然を感じられるように」というコンセプトのもと、企画展示ギャラリーが開館しました。F邸、S邸、I邸、A邸、C邸という5つのギャラリーと、「石職人の家跡」に複数のアーティストの作品が展示されています。

アーティスティックディレクターには長谷川祐子氏、建築家には妹島和世氏が起用されました。長谷川氏は、犬島の風景を巡る体験を「桃源郷」をテーマにした物語に見立てています。ギャラリーは、かつての民家の瓦屋根や古材に加え、透明なアクリルや周囲の風景を映すアルミニウムなど、さまざまな素材が使用されています。

直島 家プロジェクトの構成

直島の家プロジェクトは、以下の7つの建築とインスタレーション作品で構成されています。

角屋（かどや）

家プロジェクトの第1弾として、200年ほど経つ家屋を復元しました。建築は山本忠司氏が担当し、宮島達男氏の作品が展示されています。暗い内部には、LEDの光が浮かび上がる「時の海'98」や、液晶ガラスに数字が変化する「ナオシマ・カウンター・ウィンドウ」があります。また、蔵の奥には山水画に彩色を施した「チェンジ・ランドスケープ」も展示されています。

南寺（みなみでら）

かつて寺院があった場所に、安藤忠雄氏が設計した建物です。内部にはジェームズ・タレル氏の「バックサイド・オブ・ザ・ムーン」という作品が展示されており、作品のサイズに合わせて建物が設計されています。

きんざ

築100年以上の小さな家屋を、構造体には手を加えずに作品化したものです。内藤礼氏の「このことを」が展示されており、完全予約制で一人ずつ鑑賞します。

護王神社（ごおうじんじゃ）

江戸時代から祀られている神社で、改築の際に杉本博司氏が設計を担当しました。本殿や拝殿は伊勢神宮などの初期様式を参考にしながらも、独自の美意識が反映されています。白い敷石とガラスの階段が特徴的で、地下と地上を一体化させています。作品は「アプロプリエイト・プロポーション」です。

石橋（いしばし）

明治時代に製塩業で栄えた石橋家住宅を、特に新しく装うことなく、家そのものを再建したものです。千住博氏の作品「ザ・フォールズ」「空の庭」が展示されており、建築・空間設計は千住博氏と秋元雄史氏が担当しました。

碁会所（ごかいしょ）

かつて島民が碁を打つ場所として集まっていた場所に、須田悦弘氏が建物全体を作品空間として復元しました。内部には速水御舟の「名樹散椿」からインスピレーションを得た「椿」が展示され、庭には実物の五色椿が植えられています。

はいしゃ

歯科医院兼住居であった建物を大竹伸朗氏が作品化したものです。廃屋的な風情を強調した建物内部には、自由の女神のオマージュ作品などが置かれています。作品名は「舌上夢 / ボッコン覗」で、修復監修は秋元雄史氏が担当しました。

まとめ

家プロジェクトは、古民家を現代アートによって新たな価値を生み出す革新的な試みです。直島と犬島の両方で、歴史的な建物と現代アートが融合し、訪れる人々に新たな発見と感動を与えています。このプロジェクトは、アートが地域や人々にどのように影響を与えられるのかを示す素晴らしい例と言えるでしょう。

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