家宰

家宰（かさい）

「家宰（かさい）」とは、主に室町時代の武家において見られた重要な職責の一つです。この役職は、一家あるいは一門の長である家長に代わって、その家の家政全般を取り仕切る役割を担いました。「家事を宰領する」、つまり家事や家政を統括するという意味合いから、この名称が付けられたとされています。

役割と室町期の位置づけ

室町時代には、多くの有力武家において、当主が京都にあって将軍への奉公（在京奉公）を行うことが一般的でした。これにより、当主が本拠地を離れている間、家宰は当主に代わって領国の支配、家中の統制、財政管理など、実質的な政務を担うことになりました。このように、当主が京、家宰が領国という形で役割分担が確立していたのです。

家宰を置いた代表的な例として、室町幕府の役職である関東管領を務めた二つの上杉家が挙げられます。山内上杉家では、筆頭重臣として家宰が置かれ、特に武蔵国の有力国人であった長尾氏一族が代々この重要な職務を担いました。一方、扇谷上杉家でも同様に家宰が重用され、こちらは名門の太田氏がその任を務めました。彼らはそれぞれの上杉家において、家中の要として大きな影響力を持っていました。

権限の強大化と問題点

家宰の権限、特に領国支配におけるそれは非常に強大なものでした。その権力の大きさが示される一例として、宝徳2年（1450年）に発生した鎌倉公方の足利成氏と関東管領との対立、いわゆる江ノ島合戦が挙げられます。この際、足利成氏は対立相手である両上杉家の家宰を名指しで糾弾しており、当時の在地支配において家宰がいかに強い権力を持っていたかがうかがえます。こうした権限の強大さは、時には当主と家宰の間に深刻な対立を生む原因ともなりました。

実際に、権力を持った家宰が主君と衝突した事例が複数見られます。山内上杉家では文明9年（1477年）に、当時の家宰であった長尾景春が主君である上杉顕定に対し大規模な反乱を起こす「長尾景春の乱」が発生しました。また、扇谷上杉家では文明18年（1486年）に、名宰相として知られ、江戸城築城にも貢献した家宰の太田道灌が、主君の上杉定正によって謀殺されるという悲劇も起こっています。これらの事例は、家宰という役職が持つ影響力の大きさと、それに伴う不安定な側面を物語っています。

後世への変化

戦国時代に入り、各地で戦乱が頻発し、状況が不安定化すると、武家の当主が自ら領国に在国して支配にあたることが増加しました。これにより、家宰が全面的に領国支配を代行するという体制は徐々に変化していきます。そして、戦国時代から江戸時代にかけては、家宰に代わる重臣の役職として「家老（かろう）」や「宿老（しゅくろう）」といった呼称がより一般的になっていきました。

さらに時代が下り近世になると、家宰のような家政全般を取り仕切り、かつ強大な権限を持つ職責は姿を消していきます。代わりに、家長の私的な事柄、つまり純粋な私事を統括する役職として、その権限を限定・縮小した様々な呼称が見られるようになります。例えば、「広敷用人（ひろしきようにん）」「用人（ようにん）」「側用人（そばようにん）」「家令（かれい）」「家扶長（かふちょう）」「執事（しつじ）」などです。

ただし、これらの「用人」系の役職の職務権限は一様ではなく、それぞれの幕府や藩、あるいは家によって大きく異なりました。例えば、江戸幕府における側用人は、主に将軍と老中の間の取次を行うことを第一の任務としており、将軍家の奥向き（大奥）やより個人的・日常的な私事に関しては、広敷用人や側衆といった別の役職が担当するという分業がなされていました。

このように、家宰は室町時代の武家における権力構造の中で重要な位置を占め、当主と連携あるいは対立しながら、その家の存続と繁栄に深く関わった役職であり、時代の変遷とともにその形態や呼称を変えていったと言えるでしょう。

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