足利成氏

足利成氏：関東戦国時代の先駆け

足利成氏（あしかがしげうじ）は、室町時代後期から戦国時代にかけて活躍した武将です。第5代鎌倉公方（1449年 - 1455年）であり、初代古河公方（1455年 - 1497年）としても知られています。父は永享の乱で命を落とした第4代鎌倉公方・足利持氏です。成氏は、父と同様に鎌倉公方の補佐役である関東管領や室町幕府と対立しましたが、持氏とは異なり、約30年もの間、享徳の乱を戦い抜き、関東における戦国時代の幕を開ける重要な役割を果たしました。

生涯

幼少期

成氏の幼少期については、不明な点が多く残されています。幼名は永寿王丸（えいじゅおうまる）とする説が一般的ですが、近年では万寿王丸（まんじゅおうまる）とする説が有力です。生年についても永享6年（1434年）とする説と、永享10年（1438年）とする説が混在しています。

有力な説の一つとして、嘉吉元年（1441年）の結城合戦で、父・持氏の遺児である4歳の童が捕らえられたという記録があります。この童が成氏であると考えられています。この時、京都に連行されるはずでしたが、将軍足利義教の暗殺（嘉吉の乱）によって処刑を免れ、生き延びることができました。その後、宝徳元年（1449年）に京都から鎌倉へ向かい、鎌倉公方に就任したとされています。

しかし、近年では、宝徳元年に京都から鎌倉へ向かったのは成氏ではなく、弟の尊敒（そんしゅう）とする説が有力です。成氏自身は、信濃から鎌倉へ移り、文安2年（1445年）または3年（1446年）に鎌倉公方となったとされています。その後、宝徳元年に元服し、将軍足利義成（後の義政）から「成」の一字を与えられ、成氏と名乗るようになりました。

成氏の母については、簗田助良（やなだすけよし）の姪である「養寿（よす）」という女性とする説が提示されています。また、簗田氏が安王丸（成氏の兄）の代官を務めていたことから、安王丸と成氏の母は同一人物である可能性が指摘されています。これらの新説は、従来の系図に修正を迫るものとなっています。

鎌倉府再興と第5代鎌倉公方

永享の乱によって鎌倉府は滅亡しましたが、嘉吉の乱後、鎌倉府の再興運動が始まりました。上杉氏や関東の諸士の働きかけ、そして幕府の支持により、文安6年（または宝徳元年）に鎌倉府の再興が承認されました。これにより、成氏は新たな鎌倉公方として迎えられました。

しかし、鎌倉府再興後も、旧持氏方の武将や豪族と、上杉氏との間の緊張関係は解消されませんでした。宝徳2年（1450年）には、山内上杉家家宰の長尾景仲と、扇谷上杉家家宰の太田資清による成氏襲撃事件（江の島合戦）が発生しました。成氏は一時、江の島に避難しましたが、小山持政らの活躍により、長尾・太田連合軍を退けました。この事件後、成氏は幕府に長尾・太田両氏の処罰を求め、一時的に幕府の支持を得ました。

成氏は鎌倉に戻った後、徳政を行い、新たな鎌倉公方の権威を誇示しました。しかし、室町幕府の管領が細川勝元に代わると、幕府は鎌倉公方に対して厳しい姿勢を示し、再び関東を直接統治しようとする動きを見せ始めました。

享徳の乱勃発と古河公方

享徳3年（1455年）12月、成氏は関東管領上杉憲忠を謀殺し、これがきっかけとなり、約30年に及ぶ享徳の乱が勃発しました。成氏は上杉勢を追撃し、各地で転戦しましたが、幕府は上杉氏を支援し、成氏は朝敵とされてしまいました。

その後、成氏は鎌倉を放棄し、下総古河を本拠地とするようになり、初代古河公方となりました。古河を本拠地とした理由としては、鎌倉公方御料所の拠点であったこと、水上交通の要衝であったこと、そして、古河公方を支持する武家や豪族の拠点に近かったことが挙げられます。

成氏は幕府に対して、上杉氏との対立であり、幕府には反意がないと主張しましたが、幕府は受け入れませんでした。成氏は幕府に対抗するため、改元後も享徳の年号を使い続け、抵抗の姿勢を示しました。

成氏勢と上杉勢の対峙

古河公方となった成氏と、関東管領を擁する上杉勢は、関東を二分して対立を続けました。幕府は、成氏に対抗するため、将軍義政の異母兄・政知を新たな鎌倉公方（堀越公方）として東下させましたが、政知は鎌倉に入れず、伊豆に留まることとなりました。

その後も、両勢力は武蔵北部や上野東部を中心に激しい戦いを繰り広げました。しかし、京都では応仁の乱が勃発し、幕府は関東に軍勢を送ることができなくなりました。この状況を見た成氏は、西軍に味方して幕府との和睦を試みましたが、戦況が東軍優勢に進んだことで、この構想は失敗に終わりました。

享徳の乱終結

文明3年（1471年）、成氏は堀越公方を攻めましたが、敗北し古河に撤退しました。その後、幕府の帰順命令に応じる有力豪族が増え、古河城も危険な状態となりましたが、成氏は千葉孝胤らの支援を得て古河城に帰還しました。

文明8年（1476年）には、山内上杉家で長尾景春の乱が発生し、上杉勢は混乱に陥りました。この混乱に乗じて、成氏は上杉氏との和睦交渉を進め、文明14年（1482年）に幕府との和睦が成立しました。この和睦によって、成氏は朝敵の汚名から解放され、鎌倉公方の地位が改めて幕府に承認されました。しかし、成氏が鎌倉に戻ることはありませんでした。

晩年

都鄙和睦後、成氏は嫡男の政氏に家督を譲ったと考えられています。長享の乱では扇谷上杉家を支援しましたが、後に山内上杉家とも連携しています。明応5年（1496年）、扇谷上杉家の河越城を攻撃中に体調を崩し、翌明応6年（1497年）に死去しました。享年64歳。臨終の際、成氏は嫡子に「再び鎌倉に環住し、関八州を取り戻すことが孝行である」と言い残したと伝えられています。

偏諱を与えた人物

成氏は、多くの家臣に「成」の字を与えています。主な人物としては、宇都宮成綱、小田成治、小山成長、大森成頼、二階堂成行、野田成朝、簗田成助、結城成朝などが挙げられます。

史跡めぐり

茨城県古河市には、成氏ゆかりの史跡が数多く残されています。

古河公方館跡：成氏が鎌倉から移座した際に築かれた場所。
古河城跡：歴代古河公方の御所。
永仙院跡：成氏の菩提寺。
長谷寺：成氏が鎌倉から勧請した長谷観音が祀られている寺院。
雀神社：成氏が崇敬した神社。
満福寺：成氏の墓所がある寺院。

これらの史跡は、当時の歴史を今に伝える貴重な場所となっています。

まとめ

足利成氏は、室町時代から戦国時代への転換期に活躍した武将であり、鎌倉公方・古河公方として、関東の歴史に大きな足跡を残しました。彼の生涯は、享徳の乱という激しい戦乱の中で、激動の時代を生き抜いた武将の姿を今に伝えています。

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