家庭小説

家庭小説

家庭小説とは、主に明治から大正時代にかけて日本の新聞に連載された、女性を読者層とした通俗小説の呼称です。また、19世紀後半の欧米においては、中産階級の家庭崇拝を背景とした感傷的な物語のジャンルを指します。

日本における家庭小説

日本の家庭小説は、明治20年以降、近代的な小説の文体が確立されると、各新聞で盛んに掲載されるようになりました。それ以前の通俗小説には、政治小説や撥鬢小説などがありましたが、家庭小説は主に女性を主人公とし、彼女たちの不幸な境遇を描き、読者の同情を誘うものでした。

明治30年代には、徳冨蘆花の『不如帰』と尾崎紅葉の『金色夜叉』が特に人気を博し、後に新派劇の定番レパートリーとなりました。これらの作品は、アメリカのダイムノベルと呼ばれる女性向け通俗小説の影響を受けているとされ、『金色夜叉』の原型はバーサ・クレイの『女より弱きもの』であるとされています。

菊池幽芳は「家庭小説の王者」と称され、『己が罪』をはじめとする多くのヒット作を世に送り出しました。当時の作家は新聞社に専属する形態が多く、「朝日新聞」には半井桃水、村井弦斎、武田仰天子らが、「読売新聞」には尾崎紅葉とその門下生である小栗風葉、泉鏡花、徳田秋声などが執筆していました。

大正時代後期まで、新聞小説は家庭小説と講談の速記の二本立てが主流でしたが、次第に中里介山や直木三十五などの時代小説が登場し、これらは「大衆小説」と呼ばれるようになりました。

「家庭小説」という名称は、家庭で読むのにふさわしいという意味合いを持ちますが、実際には恋愛、不倫、性的な描写が含まれることもあり、女学校では閲覧が禁止されることもありました。

一般的な文学史では軽視されがちですが、樋口一葉などの作家も家庭小説の定型を用いて作品を執筆しており、夏目漱石の『虞美人草』や伊藤左千夫の『野菊の墓』なども家庭小説の一種と見なすことができます。二葉亭四迷が朝日新聞に連載した『其面影』も同様です。

大正時代に入っても、春葉の『生さぬ仲』や霞亭の『渦巻』などがヒットしましたが、菊池寛の『真珠夫人』のような新しい家庭小説は「通俗小説」として扱われるようになりました。この時代には、長田幹彦、久米正雄などの新しい通俗小説の書き手が台頭し、『主婦之友』『婦人倶楽部』などの婦人雑誌が連載の場として登場しました。

家庭小説は前田愛らによって研究が進められていますが、本格的な研究はまだ十分ではありません。昭和時代に入ると、生活様式の近代化とともに、中野実や佐々木邦らのユーモア小説、石坂洋次郎らの恋愛小説が人気を集め、家庭小説は次第に衰退していきました。

欧米における家庭小説

アメリカでは、スーザン・ウォーナーの『広い、広い世界』が少女を主人公にした少女小説の先駆けとされています。この作品は、当時のアメリカで普及していた日曜学校派物語の一種であり、子供たちに宗教や道徳を教えることを目的としていました。オルコットの『若草物語』は、家庭小説をさらに発展させた作品として知られています。

『若草物語』は、作者自身の少女時代の体験を基にしており、登場人物やエピソードが生き生きと描かれている点が読者の心を捉えました。その後、スーザン・クーリッジの『すてきなケティ』やモンゴメリの『赤毛のアン』などが発表され、家庭小説というジャンルが確立されました。

イギリスでは、メアリー・M・シャーウッドの『フェアチャイルド家物語』やシャーロット・ヤングの『ヒナギクの首飾り』が家庭小説の初期の作品として挙げられます。

翻訳家庭小説の復刊

日本では、1980年代に少女小説ブームが起こりましたが、その後、氷室冴子が「家庭小説」の復刊を企画し、1990年にガイドブック『マイ・ディア - 親愛なる物語』を出版、「角川文庫マイディアストーリー」として20数冊の翻訳家庭小説を復刊させました。

氷室冴子の『マイ・ディア』では、モンゴメリの『赤毛のアン』、オルコットの『若草物語』、ジーン・ポーターの『そばかすの少年』、バーネットの『秘密の花園』など、数多くの翻訳家庭小説が紹介されています。

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