己が罪

菊池幽芳の小説『己が罪』

『己が罪』（おのがつみ）は、菊池幽芳によって書かれた家庭小説で、明治時代に大阪毎日新聞で連載されました。その後、春陽堂から書籍として刊行され、新派劇や映画など様々な形で展開され、多くの人々に影響を与えました。

物語の概要

物語の主人公は、大阪天下茶屋の農家の娘である箕輪環です。母親を早くに亡くし、父親の手で育てられた環は、14歳で上京し女学校に入学します。環の美貌は評判となり、大学医科生の塚口虔三の目に留まります。塚口は、女性を弄ぶことに快楽を覚えるような人物でした。同郷の女教師である大木小枝子が環の世話をしていることを知ると、環に近づき、夏に箱根で甘い言葉で彼女を誘惑し、関係を持ちます。妊娠、結婚、同棲に至りますが、塚口には許嫁のお島がおり、トラブルが発生します。結婚式を挙げたにもかかわらず、自分が騙されていたことを知った環は、絶望し自殺を図りますが、老女に救助されます。

その後、環は玉太郎という男の子を出産しますが、精神的に不安定な状態が続き、玉太郎は房州の里子に出されます。環自身も実家に戻りますが、その後、桜戸子爵と結婚し、正弘という男の子を授かります。しかし、房州で正弘が亡くなり、同時に亡くなった少年が実は里子に出した玉太郎であったことを知ります。全てを子爵に告白し、環の父である伝蔵は責任を感じて自殺してしまいます。子爵は環の過去を受け入れ、一方、塚口は環に復縁を迫りますが、最終的に彼女は過去の過ちから立ち直ります。

多様な展開

『己が罪』は、そのドラマチックな内容から、新派劇として何度も舞台化されました。初演は1900年7月に京都常磐座で行われ、喜多村緑郎や河合武雄など、当時の人気役者が演じました。映画化も非常に多く、20回以上も映像化されています。以下に、主な映画化作品を紹介します。

映画化作品一覧

1908年
『己が罪』（吉沢商店）
『己が罪 続編』（吉沢商店）
『己が罪 続』（吉沢商店）
1910年
『己が罪』（吉沢商店）
1912年
『己が罪』（吉沢商店）
1913年
『己が罪』（小松商会）
1915年
『己が罪』（M・カシー商会）
1916年
『己が罪』（天活）
1917年
『己が罪』（日活）
1919年
『己が罪』（日活、監督：田中栄三）
1921年
『己ヶ罪』（松竹キネマ、監督：賀古残夢）
『己が罪』（小松商会）
『己が罪』（帝国キネマ演芸）
1923年
『己が罪』（日活、監督：大洞玄吾）
1924年
『己が罪』（帝国キネマ演芸、監督：松本英一）
1926年
『新説己が罪』（日活、監督：溝口健二）
1930年
『新編・己が罪作兵衛』（松竹キネマ、監督：佐々木恒次郎）
1933年
『己が罪 環』（日活、監督：畑本秋一）
1936年
『己が罪』（新興キネマ、監督：西鉄平）
1956年
『新己が罪』（新東宝、監督：毛利正樹）

各映画版の特徴

1908年版：吉沢商店が製作した初期のサイレント映画で、初の野外ロケーション撮影が行われた作品としても知られています。監督は不明で、中野信近一座が出演しています。
1919年版：田中栄三監督による作品で、当時の日活では女形が女性役を演じていたことが特徴です。藤野秀夫や衣笠貞之助らが出演しています。
1926年版：溝口健二監督による作品で、砂田駒子が主人公を演じています。フィルムは現存していないとされています。
1956年版：毛利正樹監督による作品で、乙羽信子が主人公を演じたトーキー映画です。物語は、主人公が過去の過ちと向き合いながら、新たな人生を歩む姿を描いています。

結び

『己が罪』は、菊池幽芳の小説を原作とした、明治から昭和にかけて何度も映像化された名作です。女性の苦悩や成長を描いた普遍的なテーマは、現代の観客にも感動を与えることでしょう。

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