富久

富久（とみきゅう）

『富久（とみきゅう）』は古典落語の中でも特に知られた演目の一つで、初代三遊亭圓朝によって創作されました。この落語は実際の出来事を基にしたもので、富くじと火事という二つの東京の名物が取り上げられています。多くの名人たちによって愛され、演じられることは少なく、特に名人級の大幹部だけがその技巧を持って扱うことができる極付の噺として評価されています。

あらすじ

物語はある年の暮れ、浅草の長屋に住む幇間の久蔵が酒の失敗から顧客を失い、仕事もなく困窮しているところから始まります。そんな時、大家や友人が一枚の富くじを持ってやって来て、久蔵に「一番富に当たれば千両、二番富でも五百両になる」とそそのかします。久蔵は思い切って、持っていた一分を使い「松の百十番」を購入し、神棚に供えます。

久蔵は大神宮様にお願いし、「二番富で結構なので、どうか私に福を」と祈ります。彼の夢は、小間物屋を買い、長い間恋い焦がれていたお松さんを嫁に迎えることでした。

その夜、日本橋の方で火事が発生し、町に半鐘の音が鳴り響きます。久蔵は、火事が彼が失敗した商店の旦那の店であるという話を聞かされ、夢中で長屋を離れて商店へ向かいます。商店に着くと、彼は店主に喜ばれ、避難を手伝うことで信頼を得ることになります。火事は鎮火し、彼は長屋の住人として店に居候することになります。

しばらくして、久蔵は深川八幡の前で富くじの抽選が行われているのを見かけ、自分が購入した「松の百十番」の番号を確認します。そして、見事に千両の当たりを引き当てたことを知り、彼は大喜びします。しかし、当たり札は焼けてしまい、交換できないという悲劇に見舞われます。途方に暮れる久蔵は、近所の鳶頭と鉢合わせし、なんと彼が大神宮様の神棚を持っていることを知ります。

久蔵は狂ったように相手に神棚を返せと迫り、無事に富くじの当たり札を見つけます。彼は「運のいい奴だ」と思い、喜びを隠せません。久蔵はこの当たり札を持って、周囲に借金の支払いを行いながら、大神宮様への感謝を忘れない決意を固めます。彼の物語は、運や幸運、そして夢を追いかけることの楽しさを描いています。

演者とエピソード

『富久』は八代目桂文楽、五代目古今亭志ん生、八代目三笑亭可楽などの著名な演者によっても演じられてきました。特に、演じ方には地域によるバリエーションがあり、長屋と商店の場所が異なる設定も一つの演出として楽しむことができます。また、演者によるナンセンスでコミカルな駆け回りもこの噺の魅力の一つです。

この落語は、歴史と伝統を受け継ぎつつも、新しい楽しみ方が生まれる作品として、多くの人々に愛され続けているのです。

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