富士山丸 (飯野海運)

富士山丸（ふじさんまる）

富士山丸は、飯野海運（旧飯野商事）において、五代にわたり使用されたタンカーの船名です。各世代の「富士山丸」は、日本の海運史において重要な役割を果たしました。

初代 富士山丸

建造の背景

飯野商事は、創業当初から日本海軍との関係が深く、石炭輸送で実績を上げていました。しかし、海軍が艦艇燃料を石油に転換する中で、大型タンカーの需要が高まりました。当時、民間大型タンカーは数が少なく、三菱商事が大型タンカーを発注するなど、ようやく建造の機運が高まってきた頃でした。飯野商事も小型タンカーを建造していましたが、海軍は優秀なタンカーの建造を奨励し、各社に建造を要請しました。しかし、多くの業者は採算性を問題視していましたが、飯野商事は海軍との関係を重視し、大型タンカー導入を決断しました。

建造と資金調達

飯野商事はまず、特務艦「野間」を払い下げて「日本丸」として就航させました。その後、1930年に大型タンカーの建造を海軍に申請し、播磨造船所に発注しました。しかし、当時の飯野商事は小規模な海運会社であったため、同業者からは「無謀」と見なされました。資金調達も難航しましたが、日本興業銀行からの融資を求めて交渉を重ねました。当初、銀行側はタンカーの将来性や飯野商事の信用に疑問を呈していましたが、最終的には海軍からの永久使用証明書を条件に融資に応じることになりました。この証明書を得るために、播磨造船所が海軍を説得し、融資が実現しました。建造が始まってからも、世界恐慌の影響で解約を勧める声もありましたが、飯野商事は計画を遂行しました。

船歴

1931年、「富士山丸」は播磨造船所で竣工しました。船体構造には、強度を高めるために縦通隔壁を2条設け、横隔壁をジグザグ状に配置しました。ディーゼル機関はマン社製を1基搭載し、最新式の設備を備えていました。就航後、「富士山丸」は海軍向けの石油輸送で活躍し、「本邦油槽船の規範」と評価されました。1941年には海軍に徴用され、特設運送船として太平洋戦争に参加しました。南方作戦やアリューシャン方面の戦いに従事した後、トラック島空襲で損傷し、1944年に沈没しました。

二代目 富士山丸

概要

二代目「富士山丸」は、戦時中に建造された戦時標準船の一つで、飯野海運には25隻のタンカーが割り当てられました。その中で大型のTL型は9隻で、そのうち6隻は「東邦丸」にあやかって「邦」の字がつく船名がつけられ、残る3隻は戦前に喪失したタンカーの名前を襲名しました。二代目「富士山丸」はその一つで、1944年に三菱長崎造船所で竣工しました。

船歴

竣工後、「富士山丸」は陸軍配当船として軍事輸送に従事しました。自衛武装として、短二十糎砲や機銃、爆雷などを装備していました。南号作戦に参加し、昭南（シンガポール）への輸送任務を完了した後、帰途でアメリカ潜水艦の攻撃を受けましたが、損傷しながらも日本に帰還しました。その後、貨物船に改装されることになりましたが、終戦を迎えました。

戦後、日本の石油事情が逼迫したため、GHQの指示によりタンカーに復旧され、バーレーンへの石油輸送に従事しました。1956年には鉱石運搬船に改造され、「定島丸」と改名されました。その後、鉱石輸送に従事し、1962年に解体されました。

三代目 富士山丸

概要

第二次世界大戦後、タンカーは大型化が進み、「スーパータンカー」の時代に入りました。飯野海運における初のスーパータンカーは「泰邦丸」でしたが、三代目「富士山丸」は、1957年に播磨造船所で竣工しました。総トン数は「泰邦丸」とほぼ同じでしたが、重量トン数は約1万トンも重く、飯野海運最大の所有船となりました。

船歴

竣工後、「富士山丸」は飯野海運のスーパータンカー船隊の一角として活躍しました。20年間にわたり運航され、1977年に韓国の業者に売却され解体されました。

まとめ

富士山丸は、各世代において日本の海運史を彩る重要なタンカーでした。初代は戦前のタンカーの標準となり、二代は戦時中の輸送を支え、三代はスーパータンカーとして活躍しました。それぞれの「富士山丸」は、時代の変化とともに日本の海運を支え続けたのです。

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