富士苔

富士苔（ふじのり）

富士苔は静岡県富士宮市に生息するカワノリの一種で、地元では「芝川のり」とも呼ばれています。古くから名品として名を馳せており、江戸時代においても献上品として重用されてきました。

概要

富士苔の主な生息地は芝川で、古代から受け継がれたその名称は「富士海苔」「富士苔」「富士のり」として広がり、近世には「芝川海苔」「芝川苔」とも言われるようになりました。これらの呼称は、地域の歴史と文化に根ざしています。

中世の富士苔

中世において、富士苔は天皇や幕府への献上品として特に重宝されてきました。一例として、駿河国守護の今川範政は、室町幕府の将軍である足利義教に富士苔を献上し、そのお礼として太刀を贈られたことが記録されています。これに加えて、富士氏や葛山氏も同様に富士苔を献上し、将軍の子供の誕生を祝う贈り物として利用されたということが、『昔御内書符案』に示されています。

また、公家に対しても頻繁に贈られていたことが文献に残っており、三条西実隆が後奈良天皇に献上した記録も存在します。こうした背景から、富士苔は古くから上流階級に評価されていたと理解されています。

近世以降の名声

近世に入っても富士苔の名品としての地位は変わらず、江戸幕府への献上品としても重要な位置を占めていました。1843年に発行された『駿国雑志』にもその痕跡が見られ、「芝河苔」と記され、江戸へと献上されたことが詳述されています。記録によれば、富士郡の半野村にて毎年11月から12月にかけて収穫されたものが江戸に送られたとのこと。

また、富士苔の風味は特に甘く、様々な料理に使われていたことも記録されています。『料理物語』には「ひや汁 あぶりざかな 色あをし」との記述があり、『毛吹草』や『大和本草』でもその特徴が描写されています。これらの文献は、富士苔の質の高さや料理への応用を示しており、名物としての地位を確固たるものにしています。

現代の状況

現在、富士苔はその生育環境が変わる中で、収穫量が大きく制限されています。特に水力発電所の建設が生態系に影響を与えており、収穫量は極端に減少していました。その結果、「幻のカワノリ」と称されることもあるほどです。

しかし、1998年には特定の場所で再び富士苔が多量に生育していることが確認され、保護・育成のための取り組みが進められています。現在、芝川のりの保護活動が行われており、この名品が未来へ繋がるような努力が続けられています。

富士苔は、日本の伝統的な食文化や地域の生態と密接に関わる存在であり、今後の保存と育成が求められる大切な資源です。

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