富士野

富士野（ふじの）

富士野は、富士山西南麓一帯を指す歴史的な地名で、現在の静岡県富士宮市に比定されます。この地は、鎌倉時代から様々な歴史的出来事や物語の舞台となってきました。

概要

富士野は、鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』をはじめとする文献にその名が見られます。特に、源頼朝が催した大規模な狩猟行事「富士の巻狩り」の場所として有名です。『吾妻鏡』には、建久4年（1193年）に源頼朝が藍澤での狩りを終え、富士野に移動して狩りを行った記録が残っています。また、この巻狩りを題材とした『曽我物語』や、教育に用いられた『富士野往来』などの史料も存在します。

『吾妻鏡』における富士野

『吾妻鏡』には、富士野が平家方の武将、長田入道の首をさらした場所としても記録されています。また、平家方が鉢田の戦いに向かう際に富士野を経由した記述もあります。建久4年（1193年）には、富士野に含まれる「神野」（現在の富士宮市上井出一帯）に源頼朝が滞在した記録があり、この神野が曽我兄弟の仇討ちの舞台となった場所としても知られています。

『信長公記』にも井出野とともに「かみのが原（神野ヶ原）」として記されており、この地が現在の富士宮市に比定されています。さらに、『甲信紀行の歌』にも、三条西実枝が甲斐国から帰京する途中に「かみの原」を通過した記録が残っています。

『曽我物語』における富士野

『曽我物語』では、富士野が狩猟の名所として描かれ、「東国には狩場多しといへども、富士野に過ぎたる名所はなし」と評されています。また、富士野の広大さや巻狩りの規模の大きさが強調されており、曽我兄弟の最期の地として「富士野の伊出の屋形」が描かれています。

『運歩色葉集』や『保暦間記』などの史料にも、曽我兄弟の仇討ちが伊出の屋形で行われたという記述が見られます。一方で、『吾妻鏡』には、仇討ちに関する記述に井出の屋形は登場しません。

曽我物における富士野

幸若舞曲の「曽我物」には、曽我兄弟の仇討ちを題材とした作品群が存在します。「一満箱王」では、仇討ちの場所が井出の屋形とされ、「小袖曽我」では、兄弟が富士野で敵討ちをするために暇を乞う場面が描かれています。また、母が富士野の寒さを案じて十郎に小袖を与える描写もあります。

「夜討曽我」では、畠山重忠と和田義盛が兄弟の援助者として登場し、義盛が「今夜富士野に飛ぶ火燃えいづ」と述べて夜討ちを勧める場面や、井出の屋形が登場します。

富士野往来

富士野の巻狩りの様子や曽我兄弟の仇討ちを題材にした書簡形式の史料『富士野往来』は、往来物の祖とも称され、教育の題材として広く用いられました。この書物は海外にも知られ、李氏朝鮮の『経国大典』にも日本の教育本として紹介されています。『富士野往来』では、曽我兄弟の仇討ちが「藺手（井出）の屋形」で行われたとされています。

現存する諸本の題名は、『富士野往来』または『御狩富士野往来』です。また、『運歩色葉集』に見られる富士野の巻狩りの記述は、『富士野往来』から採集したという指摘があります。

まとめ

富士野は、富士山の西南麓に位置する歴史的な地名であり、源頼朝による巻狩りの舞台や曽我兄弟の仇討ちの地として、様々な史料や物語に登場します。この地は、中世日本の歴史や文化を語る上で重要な場所であり、今もその名を歴史の中に残しています。

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