富家宏泰

富家宏泰：戦後日本の建築界を彩る巨匠

富家宏泰（1919年 7月1日-2007年 12月21日）は、20世紀後半の日本建築界を代表する建築家の一人です。香川県生まれの彼は、幼少期に朝鮮半島に移住するも、不幸な境遇を経験し、京都で育ちました。京都府立第一中学校、第三高等学校を経て、京都帝国大学（現・京都大学）建築学部に進学。学業の途中で徴兵され、満州へ従軍した経験も持ちます。終戦後は復学し、卒業後は同大学院に進み、棚橋諒、森田慶一等、著名な建築家から指導を受けました。

京都を代表する建築家としての活躍

1952年、京都大学講師を退職し、「富家一級建築士事務所」を設立。その後、約300名もの職員を抱えるまでに発展させました。バブル崩壊による事務所の解散後も、第一線で活躍を続けました。彼の作品は、大学、図書館、美術館、オフィスビル、スタジアムなど多岐に渡り、京都市内だけでも数多くの建築物を手掛けたと言われています。生涯で設計した建築物の総数は2000点以上にのぼるとされ、戦後の京都の都市景観形成に多大な貢献を果たしたと評価されています。

日本建築家協会副会長や関西支部長を務めるなど、後進の育成にも尽力し、その活躍は建築設計の枠を超えていました。1957年には日本赤十字社金色有功章、1958年には紺綬褒章を受章するなど、数々の栄誉にも輝いています。

建築家・隈研吾による評価

建築家・隈研吾氏は、富家宏泰没後15年記念回顧展のメッセージで「富家ほど、京都から愛された建築家はいない」と述べています。隈氏は、富家が建築構造を専門に学んだ点に着目し、富家のアプローチをアーティスティカル（美術・芸術的）ではなく、テクノロジカル（工業・構造的）なものとして位置づけています。そして、富家の「剛構造の理論」が、当時関東で主流だった「軟構造の理論」に対抗するものであったと指摘。同世代の建築家・大江宏氏が、論争で富家にやり込められたと述べていたエピソードを紹介し、富家の強い反骨精神にも言及しています。

モダニズム建築における富家宏泰

富家宏泰の作品は、モダニズム建築の基本的要素を踏襲しつつ、控えめで主張しすぎないデザインが特徴です。初期の作品は、モダニズム建築の理想的な姿を忠実に表現しているものが多い一方で、1960年代以降の作品には、日本の伝統的な要素を取り入れたものも見られます。例えば、立命館大学広小路学舎の「恒心館」 (現存せず) 、石川県立図書館（旧館）、京都商工会議所ビルなどでは、金属製の格子を用いて京町家の格子を想起させるデザインを採用し、日本らしさ、京都らしさを表現しています。

立命館大学衣笠キャンパスの「以学館」では、左右対称性を避け、塔などのシンボリックな要素を排除した抽象的な形態を採用しつつ、ガラス張りの階段塔や「泰山タイル」を用いることで、モダニズム建築と京の風景との調和を図っています。この試みは、カトリック河原町教会の大屋根にも見られます。これらの作品群は、教条主義的なモダニズム建築から新たな形態を模索する過渡期にある富家宏泰の姿を表していると言えるでしょう。

主な作品

富家宏泰は、京都府内を中心に、全国各地で多くの建築物を設計しました。京都市内では、能楽堂京都観世会館、比叡山国際観光ホテル（共同設計）、京都府立医科大学体育館、京都新聞社本社、京都府立総合資料館（閉館）、立命館大学、同志社[[大学]]、京都商工会議所ビル（現存せず）、京都市体育館、京都府警察本部別館、京都ロイヤルホテル（現存せず）、京都大学附属図書館、など数多くの公共・民間建築を手掛けています。

石川県内では、知事であった中西陽一氏との縁から、30以上の施設を設計しました。石川県立図書館、石川県立美術館、石川県輪島漆芸美術館などがその代表例です。また、千葉マリンスタジアム、三重県立美術館、近畿大学医学部附属病院なども彼の代表作に数えられます。

立命館大学衣笠キャンパスと泰山タイル

立命館大学衣笠キャンパスでは、1955年から1988年にかけて建設された64棟もの学舎の設計を富家宏泰が担当しました。彼は、多くの学舎の外壁に泰山製陶所の「泰山タイル」を採用しています。このタイルは、大量生産品にはない独特の風合いと美しい色彩が特徴で、キャンパス全体に統一感を与えています。泰山製陶所の閉鎖後も、新築された建物で「泰山タイル」風の外壁材が使用されるなど、富家のデザインはキャンパス全体に受け継がれています。

富家が「泰山タイル」を採用した理由は、個人的な好み、北欧建築への影響、モダニズム建築における質感や格調の表現など、複数の要因が考えられています。

回顧展

富家宏泰の生誕100年、没後15年を記念した回顧展が、京都と石川県で開催されています。これらの展覧会は、彼の建築家としての業績と、戦後日本の建築史における彼の重要な役割を改めて認識する機会となりました。

参考文献

上記本文で紹介した以外にも多くの書籍、論文、記事などが存在します。

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