富永敬俊

富永敬俊：ワインの香りを追求した醸造学者

富永敬俊（とみなが たかとし）は、1955年2月28日に東京都で生まれ、2008年6月8日に53歳で急逝した醸造学者です。彼は特にワインのアロマに関する研究でその名を知られており、ボルドー第二大学で白ワイン醸造の専門家であるドゥニ・デュブルデュー教授に師事し、ソーヴィニヨン・ブランの香りの構造に関する研究に没頭しました。

ソーヴィニヨン・ブラン研究のパイオニア

1990年にフランスに渡った富永は、1992年に修士号を取得。ソーヴィニヨン・ブランワインから、パッションフルーツを想起させる香りを持つチオールの一種である3-メルカプトヘキサノールを世界で初めて同定しました。さらに1998年には、日本人として初めてボルドー第二大学で博士号を取得。2000年には、「ソーヴィニヨン・ブランの特徴的な香りの物質の同定とそのプレカーサーから生成メカニズムの解明」というテーマで、フランス・アカデミー・アモリムよりグランプリを受賞し、その研究成果は国際的に高く評価されました。

2001年からは、ボルドー第二大学およびフランス国立農業研究所のリサーチエンジニアとして、研究活動を続けました。

甲州葡萄「甲州きいろ香」の開発

富永の研究は、フランスのワインだけでなく、日本のワインにも大きな影響を与えました。2003年、メルシャンが甲州葡萄の試験醸造中に発見した物質の同定を依頼されたことをきっかけに、メルシャンとの共同研究を開始。その結果、2005年には甲州葡萄の特徴的なアロマを持つワイン「甲州きいろ香」を世に送り出しました。このワインは、日本の固有品種である甲州葡萄の新たな可能性を示すものとして、注目を集めました。

愛鳥家としての一面

富永は、研究者としての一面だけでなく、愛鳥家としても知られていました。1994年春、ボルドー大学のキャンパスで出会ったメザンジュ・ブルー（アオガラ）のひな鳥を「きいろ」と名付けて深く愛しました。残念ながら「きいろ」は1歳の誕生日を迎えることなく亡くなってしまいましたが、富永は著書やワインの銘柄にその名を残し、愛鳥への想いを表現しました。愛鳥との日々は、2013年に絵本『いとしい小鳥　きいろ』として出版され、多くの人々に感動を与えました。

突然の死

2008年6月8日、富永敬俊はボルドー市内で心筋梗塞のため急逝しました。53歳という若さでの突然の死は、ワイン業界に大きな衝撃を与えました。

主な著書

『きいろの香り ボルドーワインの研究生活と小鳥たち』（フレグランスジャーナル社、2003年）
『アロマパレットで遊ぶ: ワインの香りの七原色』（ワイン王国、2006年）

富永敬俊は、その短い生涯の中で、ワインのアロマ研究に情熱を注ぎ、数々の功績を残しました。彼の研究は、今後のワイン造りにも大きな影響を与え続けることでしょう。

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