富知神社

富知神社（ふくちじんじゃ）

静岡県富士宮市にある富知神社は、古くからこの地に鎮座する由緒ある神社です。かつては富士山本宮浅間大社の摂社であり、「福地社」「福地明神社」「不二神社」「冨士神社」とも呼ばれていました。その歴史は非常に古く、地域の人々から厚く信仰されています。

祭神

富知神社の祭神は、大山津見神（おおやまつみのかみ）です。大山津見神は、木花之佐久夜毘売命（浅間大社の祭神）の父神にあたり、山の神として知られています。

歴史

創建

神社の創建は、孝昭天皇2年（皇紀187年）と伝えられています。これは非常に古い記録であり、富知神社がこの地で長く歴史を刻んできたことを示しています。

浅間大社との関わり

江戸時代に記された浅間大社の社伝によると、かつてこの地には富知神社が地主神として鎮座していました。大同元年（806年）に浅間大社が現在地に遷座するまで、富知神社は重要な役割を担っていたとされています。遷座後も、富知神社は浅間大社の祭祀に深く関わり、地主神としての地位を保ちました。また、平田篤胤の『古史伝』にも、富知神社が浅間大社の神主家である富士氏の古記に記されていることが述べられています。

式内社としての記録

平安時代中期に編纂された『延喜式』神名帳には、式内社として駿河国富士郡に「富知神社」の記載があり、当社はその論社の一つとされています。この記録から、富知神社が当時から重要な神社であったことが伺えます。なお、同帳では「フヂ」と読まれていました。

中世以降

『駿河国神名帳』には、正五位下に「福地天神」、従五位上に「福地地祇」という記載が見られます。『吾妻鏡』には、「富士領上政所福地社」という記述があり、この頃には浅間大社の影響下に入っていたと考えられます。以降、富知神社は浅間大社の摂社として推移し、神事は浅間大社の社人である福地大夫が司っていました。元亀3年（1572年）以降は、山田家が福地大夫を世襲したとされています。

近代

明治時代頃までは浅間大社の摂社として記録されていますが、現在は事実上独立した神社となっています。

御例祭

富知神社の例祭日は9月19日です。この祭りは、現在の氏子4区（福地区・神賀区・神立区・羽衣区）による当番制で行われています。近年では、氏子青年会が発足し、子ども神輿の渡御も行われるようになりました。例祭は、9月19日に近い週末に斎行されることが多くなっています。

各地区の担当と奉納物は以下の通りです。

令和2年：福地区（手古舞・社名旗・太鼓・子ども神輿）
令和3年：福地区（社名旗・太鼓・子ども神輿）
令和4年：神賀区（高張・手古舞・社名旗・太鼓・子ども神輿）
令和5年：神立区（高張・手古舞・社名旗・太鼓・子ども神輿）
令和6年：羽衣区（高張・手古舞・社名旗・太鼓・高張・囃子連・子ども神輿・本社神輿）

境内

境内には、本殿の左手に三峯神社が鎮座しています。

社名の由来

富知神社の「富知」という社名には、富士山の山名との関連が指摘されています。富士山の古名には、「フシ」系（不尽、布士、福慈）と「フチ」系（富知、福地）の二種類があります。このうち、「フチ」の古名は水の信仰に由来すると考えられており、富知神社がかつて浅間大社の社地にあった頃、湧水池を祭祀していたことに結び付けられています。

祭祀の変遷

浅間神の古称「アサマ」は、火山を表す呼称と見なされています。富士山の噴火を鎮める必要性から、火神信仰が水神信仰を圧倒したという説があります。大同元年（806年）に伝えられる祭祀の交代は、富士山の「水の神信仰（フチ信仰）から火の神信仰（アサマ信仰）への転換」を示す象徴的な出来事だと解釈されています。

現地情報

所在地：静岡県富士宮市朝日町12-4
交通アクセス：JR身延線 西富士宮駅より徒歩約12分

脚注

この文章は以下の文献を参考に作成しました。

『富知神社由緒略記』（神社由緒書）
『日本歴史地名体系 静岡県の地名』（平凡社）富士宮市 富知神社項
遠藤秀男『富士山の謎と奇談』静新新書、2007年。
平野栄次 編『富士浅間信仰』雄山閣出版〈民衆宗教史叢書第16巻〉、1987年。
宮地直一、広野三郎 著、浅間神社 編『浅間神社の歴史』今古書院〈富士の研究〉、1929年。
『浅間文書纂』 浅間神社社務所 編、名著刊行会、1973年。
野本寛一 著「富士山本宮浅間大社」、谷川健一 編『日本の神々 -神社と聖地- 10 東海』白水社、1987年。

関連項目

* 富士山本宮浅間大社

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