手古舞

手古舞（てこまい）とは

手古舞とは、もともと江戸時代の祭礼で山車を警護した鳶職のことを指していました。特に、山王祭や神田祭といった江戸の代表的な祭礼において、鳶職は山車の組み立てから警護まで重要な役割を担っていました。彼らは「てこまえ（手棍前）」とも呼ばれ、その名前の由来は、土木作業で手棍（てこ）を使って木や石を動かしていたことにあります。

現在一般的に知られている手古舞は、この鳶職の姿を模した衣装を身につけ、祭礼などの催しで練り歩く女性たちのことです。派手な着付けにたっつけ袴、花笠という独特のスタイルは、祭りの華やかさを一層引き立てています。

手古舞の歴史

鳶職と手古舞

江戸時代の鳶職は、祭りの際には山車の組み立てや山車小屋の建設を行い、さらに山車を引く際には木遣りを唄いながら警護するという重要な役割を担っていました。この山車に付き添う鳶職が「手棍前」と呼ばれていました。山車の前に立って道を開け、警護していたことから「前」という言葉が使われたとされています。

「手棍前」は「手古舞」とも書かれるようになりましたが、「舞」という字は当て字であり、実際に踊るわけではありませんでした。鳶職の服装は、派手な着付けにたっつけ袴、花笠というものでしたが、着流しで東からげにするスタイルもありました。

女性たちの手古舞

その後、芸者や氏子町の娘たちが、この「手棍前」の格好を真似て山車の引き回しに付き添うようになりました。これが現代の手古舞のルーツです。本来の鳶職による「手棍前」の風俗は、幕末には廃れてしまったようですが、歌舞伎や日本舞踊ではその姿が残されており、往時の様子を偲ぶことができます。

現代では、花街が途絶えた地域では、若い女性が手古舞に扮することが多く、小中学生以下の少女が扮することもあります。

手古舞の扮装

衣装

手古舞の衣装は、緋色で派手な刺繍が施された襦袢の上に、袖口が大きく開いたかます袖の着物を片肌脱ぎにして襦袢を見せます。たっつけ袴（膝から下が絞られた仕立て）を履き、花笠を背中に背負うのが一般的です。古い浮世絵では、着物の両裾を袴の脇から出して見せるスタイルもあったようです。

化粧

化粧は、基本的には歌舞伎の舞台化粧と同じですが、地毛で髪を結う場合や少女が扮する場合は、大人のフォーマルな化粧や民謡舞踊、大衆演劇のような厚化粧、さらにはバレエのような洋風の厚化粧など、様々なスタイルが見られます。

髪型

髪型は、かつては銀杏髷と呼ばれる男髷を地毛で結いましたが、現在は鬘を被るのが一般的です。地毛で結う場合や少女が扮する場合は、結綿、桃割れ、稚児髷といった少女らしい髪型になることもあります。また、栃木県内では日本髪を結わずに手拭いを姉さん被りにすることもあります。

持ち物

手古舞は、右手に錫杖（鉄製の輪が4～6個ついた金棒）、左手に自分の名前が書かれた提灯を持ち、木遣りを唄いながら練り歩きます。

手古舞が登場する祭礼・催し

手古舞は、全国各地の祭礼や催しで見ることができます。以下にその一部を紹介します。

北海道・東北

札幌まつり（北海道神宮、札幌市中央区）
ねむろ金刀比羅神社例大祭(根室市)
八戸三社大祭（八戸市）
盛岡八幡宮例大祭（盛岡市）

北関東

小鹿野春祭り（小鹿野町）
日光弥生祭（日光市）
花まつり（光泉寺、草津町）
提灯まつり（久喜市）
祇園祭（上尾市）
八坂神社大祭 熊谷うちわ祭（熊谷市）
夏祭り（真岡市）
藤岡まつり（藤岡市）
原町祇園祭（東吾妻町）
沼田まつり（沼田市）
桐生八木節祭り（桐生市）
大間々まつり（みどり市）
中之条祇園祭（中之条町）
伊勢町祇園祭（中之条町）
石岡のおまつり（石岡市）
川越まつり（川越市）
前橋まつり（前橋市）
鹿沼秋まつり（鹿沼市）
本庄まつり（本庄市）
飯能まつり（飯能市）
とちぎ秋まつり（栃木市）

南関東

大岡越前祭（茅ヶ崎市）
浅草観音うら一葉桜まつり（台東区）
青梅大祭（青梅市）
神田祭（神田神社、千代田区、中央区）
三社祭（浅草神社、台東区）
日枝神社例大祭（日枝大神社、川崎市）
鳥越祭（鳥越神社、台東区）
山王祭（日枝神社、千代田区、港区）
成田祇園祭（成田市）
佐原祇園祭（香取市）
夏の大祭（稲毛浅間神社、千葉市稲毛区）
行道獅子（三浦市）
例大祭（住吉神社、中央区）
例大祭（富岡八幡宮、江東区、中央区）
例大祭（深川神明宮、江東区）
萩中神社祭礼（萩中神社、大田区）
例大祭（諏訪神社、横浜市港北区綱島）
例大祭（牛嶋神社、墨田区）
よこすかみこしパレード（横須賀市）
秋祭り（佐倉市）
東京時代祭（台東区）

その他の地域

初ゑびす（恵美須神社、京都市東山区）
十日戎（今宮戎神社、大阪市浪速区）
新潟まつり（新潟市中央区）
例祭（富士山本宮浅間大社、富士宮市）

参考文献

『絵本江戸風俗往来』（『東洋文庫』50）-鈴木棠三編（1965年、平凡社）
『近世風俗志（守貞謾稿）』（第一巻）-宇佐美英機校訂（1996年、岩波文庫）
『近世風俗志（守貞謾稿）』（第四巻）-宇佐美英機校訂（2001年、岩波文庫）
『富ヶ岡』（No.51）※富岡八幡宮社報

関連項目

山王祭 (千代田区)
神田祭
再茲歌舞伎花轢
日本全国の祇園祭

もう一度検索