富豪層

富豪層とは

富豪層（ふごうそう）は、日本の歴史学界において、平安時代初期、特に律令制が衰退していく過程での農村において地域の有力者たちを指す概念です。この層は、いわゆる「富豪之輩」とも呼ばれ、私営田や私出挙、商業活動などの経済活動を通じて地域の発展に寄与しながら、律令制の土地支配を徐々に解体していったとされています。

歴史的背景

富豪層は、古代日本の政治制度の変遷と深く関連しており、その存在は当時の六国史や太政官符などの史料に見られます。特に律令制が実施されていた時代には、地方に下向し土着した中下級の貴族やその子孫、さらには郡司や田刀、さらには浮浪と呼ばれるさまざまな身分の人々が含まれ、豊かな経済活動を行うことによって地域における権力基盤を築き上げました。

富豪層のサイクル

富豪層は、私的な経済活動を通じて資産を蓄積し、それによって生じる債務や雇用関係を通じて班田農民を支配下に組み込んでいくことが特徴です。これにより、班田農民は雇われた下人や所従のような立場に再編され、富豪層の影響力が強化されていきました。また、時には律令政府や国衙に抵抗する形で在地領主としての地位を確立し、地方の政治において重要な役割を果たしました。

学術的議論

この現象については、石母田正が「在地領主論」を唱え、律令制的な土地支配が解体されていく中で、班田農民が奴隷から農奴へと変化し、豪族層が私営田領主へと変わっていくことを指摘しました。しかし、1960年代には戸田芳実がその主張に疑問を投げかけ、小規模経営様式の変化によって新たに形成された班田農民の富裕層が私営田領主に変わっていったことを明らかにしました。

その後、古代の律令制土地支配がどのように解体され、中世の土地制度がどのように成立していったのかを巡って、さまざまな研究が行われ、戸田の主張も注目を浴びました。それでも、戸田の意見が全ての学者によって支持されているわけではなく、研究は今なお進行中であり、石母田や戸田の論点を組み合わせながら新たな知見が模索されています。

参考文献

• - 戸田芳実「富豪層」（『日本史大事典 5』平凡社 1993年 ISBN 978-4-582-13105-5）
• - 並木優記「富豪層」（『平安時代史事典』角川書店 1994年 ISBN 978-4-040-31700-7）
• - 小林昌二「富豪層」（『日本歴史大事典 3』小学館 2001年 ISBN 978-4-09-523003-0）
• - 加藤友康「富豪層」（『歴史学事典 13 所有と生産』弘文堂 2006年 ISBN 978-4-335-21042-6）

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