浮浪

浮浪（ふろう）とは

浮浪とは、古代律令制において、人々が戸籍・計帳に登録されている本貫から離脱した状態を指します。浮宕（ふとう）・流宕（るとう）とも呼ばれ、逃亡と併せて浮逃（ふとう）とも称されました。浮浪状態にある者は浮浪人（ふろうにん）と称され、略して浪人とも呼ばれました。本貫に在住する者は土人と呼ばれました。

浮浪の定義

律令には浮浪・逃亡の明確な定義がなく、解釈に幅がありました。通説では、課役を放棄して居住地を離れた者を逃亡、それ以外を浮浪としました。近年では、本貫からの不法離脱という行為自体を「逃亡」、その結果の離脱状態を「浮浪」とする説や、離れた者を本貫地側からは「逃亡」、所在地側からは「浮浪」と呼んだとする説もあります。いずれにしても、「浮浪」と「逃亡」はほぼ同一に扱われていました。

歴史的背景

律令制下では、人々は本貫地に拘束され課役を課せられました。しかし、重い税や労役、宮都造営などの負担に耐えかねた人々は、戸籍を偽ったり、土地を捨てて流浪・逃亡しました。彼らは有力者や寺社の荘園に寄住し、課役から逃れようとしました。

浮浪は律令制の根幹を揺るがすため、国家は浮浪人を処罰し、五保制を導入して相互監視させました。浮浪が発覚した場合、同じ保の者が捜索と代納義務を負い、期間終了後には戸籍から外されました。

浮浪人に対しては、本貫地への強制送還（本貫還附）と流浪地での戸籍編入（当所編附）の措置が取られました。政府は状況に応じて政策を転換させました。天平8年（736年）には、浮浪人を従来の戸籍と分離した帳簿を作成し、把握しようとしました。

平安時代に入ると、新たなタイプの浮浪が現れます。それは農業経営の拡大などを目指し、積極的に移住する農民でした。彼らは富豪層を形成し、「富豪浪人」と呼ばれました。地方の国衙は、彼らの行動を寛容に扱い、地域経済にも影響を与えました。

政府は「不論土人浪人」を採用し、庸・調の地税化と班田収授制の放棄を進めました。戸籍や計帳は意義を失い、平安時代後期には作成されなくなり、「浮浪」の語も用いられなくなりました。中世の荘園公領制では、官物・年貢を納めずに居所から逸脱する者を「逃亡」と呼ぶようになりました。

参考文献

福岡猛志「浮浪人」（『平安時代史事典』角川書店、1994年）
寺内浩/木村茂光「浮浪」（『日本歴史大事典 3』小学館、2001年）
加藤友康「逃亡 (日本の)」（『歴史学事典 4民衆と変革』弘文堂、1996年）
宮本救「浮浪」（『国史大辞典 12』吉川弘文館、1991年）
福岡猛志「浮浪・逃亡」（『日本史大事典 5』平凡社、1993年）
長谷川綾子「浮浪・逃亡」（阿部猛 編『日本古代史事典』朝倉書店、2005年）

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