対鶴橋

対鶴橋（たいかくばし）

対鶴橋は、かつて岐阜県中津川市の木曽川に架かっていた吊橋です。橋の扁額には「對鶴橋」と記されていました。この橋は、今日の関西電力の前身である木曽電気興業（後に大同電力の一部）によって建設されました。その主な目的は、当時建設が進められていた賤母発電所へ、資材を運搬するためでした。資材は中央本線の坂下駅から陸揚げされ、この橋を渡って建設現場へと届けられました。橋の所有権は、解体される時点まで木曽電気興業の後身である関西電力が引き継いでいました。賤母発電所からは歩いて約5分の場所に位置していました。

建設当時、対鶴橋は岐阜県恵那郡坂下町と長野県木曽郡山口村という二つの県を隔てる県境の橋でした。しかし、2005年（平成13年）に坂下町と山口村が岐阜県中津川市に編入されたことにより、この橋は完全に中津川市域内の構造物となりました。

橋の概要と歴史

対鶴橋は1919年（大正8年）に供用が開始されました。全長は111.4メートル、幅員は2.5メートルという規模の吊橋でした。橋の構造は、RC（鉄筋コンクリート）製の主塔を持ち、木製のトラスで補剛されるという特徴的な形式を採用していました。設計は石川栄次郎氏が手掛けました。供用開始後、橋は数度の改修を経て維持されました。特に1976年（昭和51年）には大規模な改修が行われ、主塔へのセメント吹き付けや、木製だった補剛トラスの復元などが実施されました。さらに2005年にも全面的な修繕が行われています。

賤母発電所建設と地域との関係

対鶴橋の建設は、賤母発電所の存在と密接に関連しています。賤母発電所は1920年（大正9年）に完成しましたが、その建設過程では、当時の技術では大規模なダムの建設が困難だったため、木曽川に堰堤を築いて発電所へ水を導く方式が採用されました。この堰堤建設は、1916年（大正5年）に周辺の町村で大きな騒動を引き起こしました。騒動の背景には、木曽川の景観変化、地元の漁業権への影響、そして古くから木材を筏にして木曽川を利用してきた伝統的な運搬方法への支障といった様々な問題がありました。これらの問題は、最終的に金銭的な補償と、木材運搬のための森林鉄道（木曽森林鉄道の野尻線、蘭線、与川線、田立線）の建設によって、ひとまずの解決に至ったとされています。

役割を終えて

老朽化が進む中、2005年の全面修繕の際には、当時の所有者であった関西電力から中津川市へ対鶴橋を無償で譲渡する提案がありました。しかし、橋の老朽化に加えて、周辺地区からの利用者が少ないことなどを理由に、市への譲渡は見送られました。その後、橋の撤去が決定され、2018年3月末までに解体撤去される予定となりました。これに伴い、橋は2017年11月から全面通行止めとなり、同年12月には解体作業が開始されました。

橋の名前の由来

大同電力（およびその前身である木曽電気興業）は、水力発電所の建設に関連して木曽川水系に7つの建設用橋を架けました。これらの橋には、大同電力に関係する人物の名前などに由来するものが見られます。対鶴橋の名称は、当時の帝室林野管理局（後の帝室林野局）の長官を務めていた南部光臣氏の家紋「対鶴」にちなんで名付けられました。

他にも、木曽川に架かる南木曽町の桃介橋は、大同電力の創立者の一人である福沢桃介氏の名に由来しています。また、中津川市を流れる木曽川支流の落合川に架かる村瀬橋は、当時の大同電力の常務取締役であった村瀬末一氏の姓から命名されたものです。対鶴橋の名称は、このように日本の近代産業史における電力開発や林業行政に関わった歴史的な背景を示すものと言えます。

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