射水川成吉

射水川 成吉

射水川 成吉（いみずがわ しげきち）は、昭和初期の角界で活躍した大相撲力士である。本名を八木 成吉といい、1906年2月10日に現在の愛媛県松山市にあたる温泉郡で生を受けた。高砂部屋に所属し、独特の経歴を辿った人物として知られる。

幼い頃から地元相撲で才能を示し、大関として活躍した経験が認められ、高砂部屋へ入門する運びとなった。1924年5月場所、鳴り物入りで幕下付け出しとして相撲界の土を踏んだ。しかし、この場所を負け越したことで、翌場所では異例ともいえる序二段まで番付を下げた。一時は大きく出遅れる形となったが、その後は地道に番付を上げ、再び上位を目指した。

相撲協会と革新力士団との対立から起こった1932年1月の春秋園事件は、角界に大きな混乱をもたらした。多くの関取が協会を脱退するという未曽有の事態が発生した結果、番付編成に大きな変更が生じた。この混乱の中、射水川は当時の二段目（幕下）から一気に幕内へと昇進を遂げるという、異例の出世を果たした。これは当時の角界の状況を如実に示す出来事であった。

幕内での生活は13場所に及び、通算で61勝80敗2休の成績を残した。順調な時期もあったが、幕内上位には定着できず、1938年5月場所には残念ながら二度目となる十両への降格を経験した。力士としては押し相撲を得意とし、四つに組んだ際には左四つからの攻めに長けていたとされる。全身を浴びせかけるような重い押しと、左を深く差してからの寄りや投げを得意手としていたのだろう。

1939年1月場所を最後に現役を退いた。引退後は、年寄名跡である大山を襲名。その後、岩友、さらに西岩と名跡を変更しながら、高砂部屋の部屋付き親方として後進の指導にあたった。指導者として、自身の経験、特に付け出しから序二段への降格、そして春秋園事件での異例の昇進といった波乱万丈の経歴を活かし、若い力士たちを育てていたことと思われる。

しかし、その後の人生は思いもよらぬ形で断たれることとなる。第二次世界大戦末期の1945年3月10日、アメリカ軍による東京大空襲が発生した。この悲劇的な出来事により、射水川成吉はわずか38歳という若さでその短い生涯を閉じた。この未曽有の空襲では、彼だけでなく、豊嶌雅男、枩浦潟達也といった現役力士や、琴ヶ浦善治郎（世話人）ら、相撲界の関係者も複数犠牲となっている。戦時下の混乱が、角界にも暗い影を落とした出来事であった。

射水川の残した主な成績は以下の通りである。

通算成績：84勝106敗7休（勝率.442）
幕内成績：61勝80敗2休（勝率.433）
通算在位：20場所
幕内在位：13場所

また、各段優勝としては、1931年10月場所で幕下優勝を果たしている。この優勝が、翌年の新入幕へと繋がる重要なステップとなった。

射水川成吉の生涯は、付け出しでの挫折、春秋園事件という社会情勢による異例の昇進、そして戦争という不可抗力による突然の死という、まさに波乱の連続であった。短い現役生活ではあったが、その経歴は昭和初期の相撲界の複雑な状況を映し出していると言えるだろう。後進の指導にあたっていた矢先の死は、角界にとっても大きな損失であった。

関連項目

* 大相撲力士一覧

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