小凱旋式

小凱旋式（オウァティオ）

小凱旋式（羅:ovatio、英:ovation）は、古代ローマで行われた軍事的栄誉を称える儀式である凱旋式の一種です。通常の凱旋式が強大な国家レベルの敵に対する圧倒的な勝利に対して許可されたのに対し、小凱旋式はこれより小規模な成功、具体的には国家にとって劣ると見なされる敵（奴隷反乱軍や海賊など）に対する勝利、あるいは大きな犠牲を伴わずに紛争が解決された場合に挙行が認められました。

小凱旋式は、通常の凱旋式と比較すると、より控えめで簡素、かつ厳粛な形式で行われました。最高の栄誉である凱旋式では、勝利将軍は金糸の刺繍が施された紫色の豪華なトガ・ピクタを纏い、月桂樹の冠を被り、白馬に牽かせた四頭立てのチャリオットに乗ってローマ市に入城しました。これに対して小凱旋式では、将軍は政府高官が着用する縁に紫の帯があるトガ・プラエテクスタを身につけ、月桂冠ではなくギンバイカ（ミルトス）の葉で作られた質素な冠を被りました。移動手段も、チャリオットに乗るのではなく徒歩でした。式典の進行も簡略化されており、元老院議員や兵士の大規模な行列を伴わず、ラッパのけたたましいファンファーレの代わりにフルートの穏やかな伴奏が用いられました。儀式の締めくくりに捧げられる生け贄も異なり、凱旋式の雄牛ではなく、羊が神に捧げられました。この生け贄として用いられた羊（ラテン語でovis）が、「オウァティオ（ovatio）」という儀式の名称の語源になったという説が有力視されています。

歴史上、小凱旋式が挙行された事例は複数ありますが、中でも最も広く知られているのは、紀元前71年にマルクス・リキニウス・クラッススがスパルタクスの反乱を鎮圧した際に執り行われたものです。奴隷に対する勝利であったため、凱旋式ではなく小凱旋式が認められたとされています。ただし、特別な場合として、マルクス・ペルペルナやクラッススのように、元老院の特別の許可を得て、小凱旋式でありながら月桂冠の着用が許された例も存在します。また、帝政時代に入ると、共和政時代には徒歩が原則だった将軍が、騎乗して式に臨むことが許されるなど、小凱旋式の形式にも若干の変化が見られました。

小凱旋式は、共和政時代から帝政時代にかけて、多くの軍事指導者や政治家によって挙行されました。特に共和政時代には、少なくとも23名がこの栄誉を受けています。主な挙行者を以下に列挙します。

共和政時代
紀元前503年 – プブリウス・ポストゥミウス・トゥベルトゥス（サビニ人に対する勝利）
紀元前487年 – ガイウス・アクィッリウス・トゥスクス
紀元前474年 – アウルス・マンリウス・ウルソ
紀元前462年 – ティトゥス・ウェトゥリウス・ゲミヌス・キクリヌス
紀元前421年 – グナエウス（またはヌメリウス）・ファビウス・ウィブラヌス
紀元前410年 – ガイウス・ウァレリウス・ポティトゥス・ウォルスス
紀元前392年 – マルクス・マンリウス・カピトリヌス
紀元前360年 – マルクス・ファビウス・アンブストゥス
紀元前290年もしくは289年 – マニウス・クリウス・デンタトゥス
紀元前211年 – マルクス・クラウディウス・マルケッルス
紀元前207年 – ガイウス・クラウディウス・ネロ
紀元前200年 – ルキウス・コルネリウス・レントゥルス
紀元前196年 – グナエウス・コルネリウス・ブラシオ
紀元前195年 – マルクス・ヘルウィウス・ブラシオ
紀元前191年 – マルクス・フルウィウス・ノビリオル
紀元前185年 – ルキウス・マンリウス・アキディヌス・フルウィアヌス
紀元前182年 – A. テレンティウス・ウァロ
紀元前174年 – アッピウス・クラウディウス・ケント
紀元前132年 – マルクス・ペルペルナ
紀元前99年 – マニウス・アクィッリウス
紀元前71年 – マルクス・リキニウス・クラッスス
紀元前44年 – ガイウス・ユリウス・カエサル
紀元前40年 – オクタウィアヌス（後のアウグストゥス）
紀元前40年 – マルクス・アントニウス
紀元前36年 – オクタウィアヌス（後のアウグストゥス）
帝政時代
紀元前11年 – 大ドルスス（ネロ・クラウディウス・ドルスス）
紀元前9年（紀元前11年に承認） – ティベリウス（後の皇帝）
20年 – 小ドルスス（ドルスス・ユリウス・カエサル）
40年 – ガイウス（カリグラ帝）
47年 – アウルス・プラウティウス
55年 – ネロ（後の皇帝）
93年 – ドミティアヌス（後の皇帝）

このように、小凱旋式は凱旋式に比べれば格下と見なされつつも、重要な軍功を挙げた者に与えられる名誉ある儀式であり、多くのローマの指導者たちがこれを挙行しました。その簡素な形式は、完全な国家レベルの敵への勝利とは異なる性格の成功を反映していました。

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