小仁熊ダム

長野県東筑摩郡筑北村、かつての旧本城村にあたる富蔵地区に位置する小仁熊ダムは、信濃川水系犀川の支流である麻績川へ注ぐ東条川の治水に加え、並行して流れる別所川の支流である小仁熊川に築かれた多目的ダムです。愛称は「富蔵ダム」と呼ばれています。高さ36.5メートルの重力式コンクリートダムとして、主に洪水調節、河川維持用水の確保（不特定利水）、そして周辺地域への上水道用水供給という重要な役割を担っています。

建設の背景と歴史

筑北村が位置する筑北盆地は、長野県内では比較的降水量が少ない地域です。しかし、台風などの影響で大雨が降ると、東条川が氾濫し、度々水害が発生してきました。そのため、この地域では長年にわたり効果的な治水対策が求められていました。また、長野自動車道の開通と麻績インターチェンジの設置により、松本市や安曇野市などからのアクセスが向上した結果、宅地開発が進展し、新たな上水道水源の確保も喫緊の課題となっていました。

こうした状況を受け、長野県は筑北ダム建設事務所（後の奈良井川改良事務所）を設置し、筑北盆地における抜本的な治水・利水事業を計画しました。この計画に基づき、麻績川を境界として、その南側では小仁熊川に小仁熊ダムを、北側では宮川に北山ダムの建設が着手されました。

小仁熊ダムは、東条川の総合的な開発事業の一環として計画されましたが、ダム本体は東条川の本流ではなく、並行する別所川の支流である小仁熊川に建設されるという、ユニークな方式が採用されました。そして、東条川に分水堰を設け、洪水時に流下する水量の一部を総延長2.8キロメートルにも及ぶ導水路を通して小仁熊ダムへと引き込むことで、複数の河川の治水を同時に行う計画となりました。このような複雑な治水方式が採用された背景には、東条川流域がすでに集落が密集しており、さらにJR篠ノ井線が並行して走っているため、大規模なダム建設はもちろん、河川改修すら容易ではなかったという地形的・社会的な制約がありました。

1983年（昭和58年）から1988年（昭和63年）にかけて実施計画調査が行われ、1989年（平成元年）より本格的な建設工事が始まりました。東条川分水堰、導水路（開水路部2,133メートル、JR線を潜るトンネル部675メートルを含む総延長2,808メートル）、そしてダム湖に水没する区間に代わる新たな道路の敷設工事が並行して進められました。1998年（平成10年）3月にはダム本体の工事が始まり、1999年（平成11年）9月にはコンクリートの打設が開始されました。同年11月9日には、関係者約170名を迎えて定礎式が厳かに挙行されました。コンクリートの打設は2000年（平成12年）12月に完了し、その後試験湛水を経て、2003年（平成15年）8月に全ての工程が完了し、ダムが完成しました。

建設時の課題

2000年（平成12年）10月に長野県知事に就任した田中康夫氏により、多くのダム事業を含む公共事業の凍結や見直しが進められました。しかし、小仁熊ダムは1998年には既に本体工事に着手していたため、いわゆる「脱ダム宣言」後も計画通りに建設が続けられました。

一方で、建設地がかつての旧炭鉱跡地であったことから、ダム建設における止水対策、特にコンクリート充填による地盤強化が極めて重要かつ困難な作業となりました。この作業に多大な時間と労力が費やされた結果、工期が長期化し、事業費も当初1989年の見込みであった62億円を大幅に超え、3倍以上の215億円にまで膨らむ結果となりました。

また、ダム完成前の試験湛水時には、ダム本体より上流約300メートルの地点でひび割れが発生し、周辺道路が一時的に通行止めとなるというアクシデントも報告されています。

周辺情報

小仁熊ダムへは、長野自動車道麻績インターチェンジを下り、国道403号を経由して別所地区方面へ進むとアクセスできます。ダムの右岸には管理事務所が置かれており、ダムの堤頂は歩道として一般に開放されています。敷地内の公園には、ダムの愛称である「富蔵ダム」と刻まれた石碑が建立されています。ダム湖の上には長野自動車道の高架橋が架かっており、高速道路を走行する車両からは、車窓越しに小仁熊ダムの姿を眺めることができます。

ダム周辺には、スポーツ施設であるやすらぎスポーツ広場や、地元の特産品が揃う道の駅さかきた、そして温泉施設である西条温泉などがあり、立ち寄りスポットとして利用されています。

小仁熊ダム