小口川軌道

富山県富山市の山間部にひっそりと存在する小口川軌道は、主に建設資材の運搬を目的とした軌道です。通称「水口建設資材運搬線」とも呼ばれ、日本国内で今なお稼働するナローゲージ（狭軌鉄道、軌間1067 mm未満）の一つとして知られています。この軌道は、常願寺川水系小口川の上流域、特にその左岸に位置する北陸電力小口川第三発電所と山麓を結ぶ重要な生命線となっています。全長は約1.5キロメートル、軌間は762ミリメートルの狭い規格で敷設されています。路線の所有は北陸電力が担い、運行管理は水口建設産業株式会社が行っています。

小口川流域には、右岸側に有峰林道小口川線が整備され、車両によるアクセスが可能となりました。しかし、川の左岸にある小口川第三発電所へは、地形的な制約から車道が設けられませんでした。そのため、発電所への資材や機材の輸送手段として、現在に至るまでこの小口川軌道が現役で利用されています。ヘリコプターによる輸送に頼ることなく、地上の交通手段として機能し続けている点は、この軌道の大きな特徴と言えます。

この軌道は年間を通じて稼働しているわけではありません。例年、夏場の数ヶ月間という限られた期間のみ利用されます。この期間は、主に北陸電力小口川第三発電所本体や、その周辺設備の補修・メンテナンス工事に必要な資材を運ぶために使われます。季節限定の運行形態も、山間部の工事用軌道ならではの側面と言えるでしょう。

小口川軌道の敷設ルートは非常に個性的です。急峻な小口川の峡谷沿い、山腹にへばりつくように進んでいきます。線路は文字通り等高線を忠実にたどり、カーブを繰り返しながら標高を稼いだり、維持したりしています。路線の大部分は、日中でも鬱蒼とした木々に覆われた暗い林の中を通過します。このような環境は、この軌道が人里離れた厳しい自然の中に存在することを示しています。全線にわたって単線で、列車交換設備はありません。電化されておらず、内燃機関車が客車や貨車を牽引する形態です。

具体的な路線データとして、総延長は約1.5キロメートルです。軌間は765ミリメートルと記録されています。起点と終点の2つの駅が存在しますが、詳細は明らかになっていません。全線が単線であり、電気による動力は使用されていません。勾配に関する具体的な数値（平均勾配、最大勾配）は公開されていませんが、前述の地形的な特徴から、勾配区間が多く存在することが予想されます。

この軌道で使用されている車両は、一般的な鉄道車両とは異なり、自動車を軌道用に改造したものが中心です。例えば、かつて三菱自動車などが製造した車両をベースに、車輪を鉄輪に交換するなどの改造が施されています。比較的最近では、2017年に三菱ジープを改造した新しい内燃機関車が導入され、資材運搬の任に当たっています。これらの特殊な車両も、小口川軌道ならではの魅力と言えるでしょう。

小口川軌道は、現代においても山間部の発電所へのアクセスを支える、貴重なナローゲージ軌道です。厳しい自然環境の中を走破し、限られた期間だけその役割を果たす姿は、日本の産業を支える隠れたインフラの一端を示しています。歴史ある有峰林道や軽便鉄道といった関連するキーワードとともに、その存在は日本の産業遺産や秘境鉄道的な魅力としても注目されるべきでしょう。

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