小山正太郎

小山正太郎：教育者として名を馳せた明治時代の洋画家

小山正太郎（こやま しょうたろう、1857年2月15日 - 1916年1月7日）は、明治時代の日本を代表する洋画家であり、教育者として大きな功績を残しました。武士の家に生まれ、藩医であった父の影響を受けながら、彼は芸術の道へ進み、日本の洋画教育の発展に多大な貢献を果たしました。

経歴：武士から洋画教育者へ

越後長岡藩の藩医の家に生まれた小山は、明治2年（1869年）家督を相続し、藩士となりました。廃藩置県後、長岡洋学校で学び、その後、政治家を志して上京しますが、川上冬崖の画塾「聴香読画館」に入塾し、まもなく塾頭を務めるほどの実力を見せます。

その後、陸軍兵学寮を経て陸軍士官学校図画教授掛に就任。フランス人教官から水彩画を学び、工部美術学校に入学。イタリア人教官アントニオ・フォンタネージに師事し、卒業後はその助手を務めるほど優秀な成績を収めました。しかし、フォンタネージの後任教官の指導方法に疑問を感じ、仲間と共に退学。浅井忠らと共に「十一会」を結成します。

明治12年（1879年）からは東京師範学校図画教員に就任。以後、図画調査委員、図画教科書編纂委員などを歴任し、日本の図画教育の普及に尽力しました。この間、『東洋学芸雑誌』に「書は美術ならず」を発表し、岡倉天心らと論争を繰り広げるなど、日本の美術界に大きな影響を与えました。東京高等師範学校では、岡倉天心の洋画排斥論に反対し、解任されるという経験もしています。

不同舎：後進の育成

小山の最大の功績の一つは、明治20年（1887年）に十一会から発展した画塾「不同舎」の主宰です。柳（高橋）源吉、本多錦吉郎、浅井忠、松井昇ら優れた講師陣を迎え、工部美術学校の洋画部廃止によって洋画を学ぶ機会を失いかけていた多くの学生を受け入れました。最盛期には300人を超える生徒が在籍し、中村不折、満谷国四郎、鹿子木孟郎、青木繁といった多くの著名な画家を輩出しました。

小山は、生徒一人ひとりの個性と才能を尊重し、個々の資質に合わせた指導を行いました。自身は油彩画をあまり見せなかったと伝えられており、弟子たちが自身の画風を模倣することを避け、独自の表現を追求することを促したと考えられています。「諸君は三本も四本も無駄な線を引くが、よく決心してタンダ一本断然やるべし」という言葉からも、正確な描写と線の洗練を重視した小山の指導方針がうかがえます。

画風と作品

小山の画風は、師であるフォンタネージの影響を受け、バルビゾン派の写実的な様式が見られます。一方で、漢籍に由来する難解な題名を作品に付けるなど、独自の感性も持ち合わせていました。現存する作品は少ないものの、鉛筆による風景写生画が多く残されており、その精緻な描写は高い技術力を示しています。

教育者としての評価

小山正太郎は、自身の作品を残すことよりも、後進の育成に力を注ぎました。そのため、画家としての評価は低く見られがちでしたが、不同舎で育まれた多くの優れた画家たち、そして日本の洋画教育の発展への貢献は、彼の偉大さを物語っています。彼の教育理念は、弟子たちの個性と才能を尊重し、独自の表現を追求させるというものであり、明治時代の美術教育に大きな影響を与えたことは間違いありません。彼の生涯は、日本の近代美術史において重要な位置を占めるものです。

家族と墓所

小山正太郎の父は長岡藩の藩医、弟には海軍少将の小山吉郎、陸軍大佐の小山秋作がいます。妻は鹿児島藩士の家村住義の娘です。墓所は東京都文京区向丘の真浄寺です。

主要作品

風景（宮城県美術館）
川上冬崖像（東京芸術大学大学美術館）
仙台の桜（新潟県立近代美術館）
牡丹図（ひろしま美術館）
秋景図（個人蔵）
濁醪療渇黄葉村店（ポーラ美術館）
牧童図（個人蔵）
孝明天皇宸影

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