小川大系

小川大系：安曇野が生んだ彫刻家

小川大系（おがわ たいけい、1898年-1980年）は、長野県安曇野市出身の彫刻家です。本名は小川孝義。地主の家に生まれた彼は、高等小学校卒業後、農業のかたわら表具師として修業を積み、独学で日本画を学びました。

35歳にして上京を決意した小川は、同郷の山本安曇氏に才能を見出され、巨匠・北村西望に師事することになります。師事後、彫刻制作に没頭し、1934年、36歳の時に「天空を行く」で第15回院展に入選。その後も文展（文部省美術展）に入選を重ね、1941年には文展無鑑査の栄誉に輝きました。

しかし、第二次世界大戦中の東京大空襲でアトリエを焼失、郷里へ帰郷します。戦後は、郷土の美術文化の発展に尽力。中信美術会委員長、信州美術会運営委員、長野県工芸会会長などの要職を歴任し、日展委員、日本彫刻会会員として活躍しました。

地元・穂高町（現・安曇野市）では教育委員を務め、彫刻家荻原碌山の顕彰活動にも尽力、碌山美術館の建設に大きく貢献しました。

小川大系の作品は、郷土の自然や人々の生活を題材にしたものが多く、力強くも繊細な表現で知られています。穂高駅前に設置されている1970年制作の「登頂」は、その代表作の一つ。雄大な北アルプスの山々を思わせる、力強い表現が印象的です。また、穂高神社の狛犬も彼の作品です。

平成初期には、穂高町のふるさと創生事業の一環として、「水馬」「天空をゆく」「鱒投網」「ゆめ」の4作品がブロンズ像として制作されました。これらの作品は、現在も安曇野の街の風景に溶け込み、人々に親しまれています。

小川大系は、彫刻家として高い技量と芸術性を持ち合わせただけでなく、教育者、行政関係者として、郷土の美術文化の発展に多大な貢献をしました。彼の功績は、現在も安曇野の地に息づいており、多くの人々に感動と勇気を与え続けています。晩年は安曇野の自然に抱かれながら制作を続け、82歳でその生涯を閉じました。

彼の作品は、安曇野の自然と人々の生活、そして彼が抱いた強い意志を表現しており、後世に伝えられるべき貴重な文化遺産です。安曇野を訪れた際には、彼の作品に触れ、その魅力を体感してみることをお勧めします。

参考文献

『長野県美術大事典』 郷土出版社、1986年
『安曇野の美術』安曇野市教育委員会、2021年

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