小早川清

小早川 清

小早川 清（こばやかわ きよし、1899年〈明治32年〉8月29日 - 1948年〈昭和23年〉4月4日）は、大正時代から昭和時代に活動した日本の浮世絵師、日本画家、そして版画家です。特に美人画と新版画の分野で知られています。

来歴

清は1899年、福岡県福岡市博多に生まれました。幼い頃に小児麻痺を患い、その影響で左手に後遺症が残りましたが、逆境を乗り越え、左手一本で絵筆を握り続けた画家として知られています。13歳で上田鉄耕に師事して南画を学び始めた後、19歳で上京し、当時美人画の大家であった鏑木清方の門を叩きました。清方門下の画家たちが集う「郷土会」に参加することで研鑽を積み、その才能を開花させていきます。

帝展（帝国美術院展覧会）では、1924年（大正13年）の第5回展に「長崎のお菊さん」が初入選を果たしました。これ以降、浮世絵やキリシタン文学の綿密な研究に基づいた考証を生かし、長崎を題材とした異国情緒あふれる美人画を多数制作。1934年（昭和9年）の第15回帝展まで、ほぼ毎回入選を重ねるなど、官展で高く評価されました。中でも、1933年（昭和8年）の第14回帝展に出品した歌手の市丸を描いた「旗亭涼宵」は、新特選に選ばれるという栄誉に輝いています。

美人画と並行して、清は新版画の分野でも重要な足跡を残しました。1927年（昭和2年）頃から木版画の制作を開始し、1930年（昭和5年）から翌1931年（昭和6年）にかけては、私家版で限定100部のシリーズ「近代時世粧」を刊行しました。このシリーズには、『ほろ酔ひ』『化粧』『爪』『瞳』『黒髪』『口紅』といった作品があり、現代的な女性の様々な姿を捉えたこれらの作品は、木版画家としての清の代表作として広く知られています。その後も、1932年（昭和7年）には版元の長谷川から「踊り」「唐人お吉」「ダンサー」が、1934年（昭和9年）頃には渡辺版画店から「舞踏」が、高見澤木版社や丹緑堂からは「美女三態」シリーズとして『髪』『湯上り』『艶姿（芸者市丸）』などが版行されました。これらの木版画作品の多くは、彫師の高野七之助と摺師の斧富三郎といった優れた職人たちの手によって生み出されています。

清の新版画作品は、当時の現代的な女性像を、艶やかさと華やかさを兼ね備えた独自の作風で表現しているのが特徴です。

官展においては、1936年（昭和11年）に文展招待展に「宵」を出品した後、翌1937年（昭和12年）の第1回新文展以降は無鑑査の地位を得て、主要な展覧会に作品を発表し続けました。また、日本画会や青衿会など、様々な美術団体にも会員として参加し、精力的に作品を発表しています。戦後にも数点の作品を手がけましたが、特に人気が高いのは昭和初期に制作された作品群です。

代表作としては、前述の「長崎のお菊さん」や新特選受賞作「旗亭涼宵」のほか、「春琴」などが挙げられます。画家として制作活動を行う傍ら、浮世絵の蒐集と研究にも深く取り組んでいました。

1948年（昭和23年）4月4日、東京都大田区の自宅にて、脳溢血のため48歳で急逝しました。

主な作品

長崎のお菊さん
旗亭涼宵（島根県立石見美術館蔵）
宵（島根県立石見美術館蔵）
唐人お吉（福富太郎コレクション）
蘭館婦女の図
行く春
美人詠歌図
赤いドレス（千葉市美術館蔵）
童子（東京国立近代美術館蔵）
化粧（東京国立近代美術館蔵）
踊り（東京国立近代美術館蔵、福岡市美術館蔵）
舞踏（渡辺版）
ダンサー（長谷川版、福岡市美術館蔵）
芸者市丸（高見沢版、福岡市美術館蔵）
湯上り（高見沢版、福岡市美術館蔵）
近世時世粧ノ内 ほろ酔ひ（アーサー・M・サックラーミュージアム蔵）
近世時世粧ノ内 瞳（アーサー・M・サックラーミュージアム蔵）
近世時世粧ノ内 口紅（アーサー・M・サックラーミュージアム蔵）

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