小説NON

株式会社祥伝社が発行していた月刊の小説雑誌、『小説NON』（しょうせつノン）は、1986年6月にその歴史を開始しました。毎月22日に発売され、判型はA5というスタイルで、多くの読者に親しまれてきました。

多彩なジャンルとベストセラーの創出

『小説NON』の大きな特徴は、掲載される作品ジャンルの多様性にあります。推理小説や伝奇小説はもちろんのこと、スリリングなアクション小説、そして綿密な時代考証に基づいた歴史小説や時代小説など、非常に幅広い分野の作品を積極的に掲載し、様々な読者の関心に応えていました。

同誌は、祥伝社の小説部門において中心的な役割を担い、数多くのベストセラー作品を世に送り出す原動力となりました。特に、菊地秀行氏による人気シリーズ『魔界都市ブルース』など、多くの読者を獲得した作品は『小説NON』誌上での連載から生まれています。これらの連載作品は、連載終了後に祥伝社から単行本として刊行されるケースが一般的でしたが、同社のノベルスレーベルである『ノン・ノベル』シリーズに収録されることもありました。

誌名に込められた革新的な理念

誌名である『NON』という言葉には、創刊当時からの強い意志と哲学が込められています。これは、祥伝社が手がける他のシリーズ、例えば『ノン・ブック』や『ノン・ノベル』にも共通するコンセプトです。「NON」（否定）という言葉が示すように、既存の価値観や既成の枠組みに安易に囚われることなく、それらを否定し、乗り越えることで、小説という表現形式を通じて新たな価値観や表現手法を追求していこうという、革新的な精神を象徴しています。この理念は、同誌が多様なジャンルや意欲的な作品を積極的に掲載してきた姿勢にも表れています。

文学賞との連携と電子媒体の試み

『小説NON』は、新人作家の発掘や地方文学の振興にも貢献しました。特に、湯河原文学賞の小説部門や、九州さが大衆文学賞といった、地方の主要な文学賞の受賞作品が誌上で発表される場を提供することで、才能ある作家たちのデビューや作品の紹介をサポートしました。

時代の変化に対応する試みとして、2000年代には電子版である『WEB-NON（ウェブ・ノン）』も展開されました。しかし、電子媒体への移行は軌道に乗らず、惜しまれながらも2015年8月発売号をもって『WEB-NON』の提供は終了しました。

過去の主な連載作品

『小説NON』の歴史において、多くの著名作家による多様な作品が連載されました。その中には、後世に名を残すような重要な作品も含まれています。代表的なものとしては、安東能明氏の『限界捜査』、五十嵐貴久氏の『炎の塔』、貴志祐介氏の『ダークゾーン』、西村京太郎氏の『十津川警部 七十年後の殺人』、葉室麟氏の『春雷』や『潮鳴り』、柚月裕子氏の『パレートの誤算』などが挙げられます。

この他にも、遠藤武文氏の『龍の行方』、大崎梢氏の『空色の小鳥』、梶よう子氏の『連鶴』、菊地秀行氏の『狂絵師サガン』、北原尚彦氏の『ホームズ連盟の事件簿』、西條奈加氏の『六花落々』、笹本稜平氏の『分水嶺』、柴田哲孝氏の『下山事件 暗殺者たちの夏』、城野隆氏の『風狂の空』、新堂冬樹氏の『少女A』、鳥羽亮氏の『さむらい 修羅の剣』、中山七里氏の『ヒポクラテスの誓い』、原宏一氏の『佳代のキッチン』、結城充考氏の『狼のようなイルマ』、宮内悠介氏の『遠い他国でひょんと死ぬるや』など、推理、時代、伝奇、ミステリー、SFといった多岐にわたるジャンルから、多くの実力派作家による意欲的な作品が本誌を彩りました。これらの連載作品を通じて、『小説NON』は長年にわたり日本の小説界に貢献し、多くの読者に質の高いエンターテインメントを提供し続けました。

『小説NON』は、その創刊理念に基づき、常に新しい小説の可能性を探求し、多様な作品を通じて日本の小説シーンに確かな足跡を残した月刊誌と言えるでしょう。

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