小野のシダレグリ自生地

小野のシダレグリ自生地

小野のシダレグリ自生地は、長野県上伊那郡辰野町小野地区に位置する、特異な形態を持つシダレグリが群生する場所です。この地には約800本ものシダレグリが自生しており、その規模は日本国内でも最大級を誇ります。1920年（大正9年）には国の天然記念物に指定され、その価値が認められました。

歴史と伝承

江戸時代から、この場所のシダレグリの存在は知られていました。しかし、その枝が垂れ下がり、曲がりくねった異様な姿から、人々は天狗の仕業によるものと考え、「天狗のクリ」や「天狗の森」と呼んで恐れていたそうです。近隣の村人も、この森に近づくことを避けていたといいます。

地理的特徴

自生地は、辰野町と岡谷市にまたがる小野峠の西側、楡沢と呼ばれる沢の最上流部に位置しています。JR中央本線小野駅から東へ約3キロメートルの場所にあり、天然記念物に指定された区域は約3.4ヘクタール、標高は950メートルから1,200メートルに及びます。

シダレグリの特性

シダレグリ（学名：Castanea crenata var.pendula Makino）は、ニホングリの変種の一つです。一般的に単独で生育することが多い中、小野のシダレグリ自生地のように群落を形成するのは非常に珍しいケースです。この地では、大小さまざまなシダレグリが山の斜面全体に群生しており、中には目通り周囲が4メートルにも達する巨木も存在します。

シダレグリの特徴は、その独特な樹形にあります。枝が傘のように四方に垂れ下がり、幹や枝も曲がりくねっています。これは、突然変異によるものと考えられており、通常のクリに見られる頂芽優勢とは異なり、頂芽が数年で枯れて側芽が成長する性質によるものです。

小野のシダレグリの実は、人の小指の爪よりも小さく食用には適しません。そのため、地元の人々は昔からこの森に近づくことがなく、結果として長年にわたり自然な状態が保たれ、シダレグリの純林が形成されたと考えられています。

天然記念物としての指定と保護

小野のシダレグリ自生地は、1920年に「小野村枝垂栗自生地」として国の天然記念物に指定されましたが、1957年に現在の「小野のシダレグリ自生地」へと名称が変更されました。同時期には、他にもいくつかのシダレグリ自生地が天然記念物に指定されましたが、小野の自生地はその中でも特に規模が大きいとされています。

現在、自生地では、枯死した個体の保護や後継樹の育成などが行われています。地元の人々による下草刈りや、自然発生した実生から枝垂れる性質を持つものを残すといった保護活動が続けられています。

遺伝資源としての価値

シダレグリは、希少な遺伝資源としても注目されており、果樹研究所によって遺伝資源の収集と調査が行われました。その結果、傘状、柳状、中間的なものなど、様々なタイプのシダレグリが確認され、遺伝的な多様性が明らかになりました。

収集されたシダレグリは、接ぎ[[木]]苗として保存され、その特性を解明するための研究が進められています。

周辺施設とアクセス

小野のシダレグリ自生地を含む一帯は、1964年に塩嶺王城県立自然公園として指定されました。自生地周辺にはキャンプ場などが併設され、「しだれ栗森林公園」として辰野町によって管理・運営されています。

アクセスは、JR中央本線（辰野支線）小野駅からタクシーで5分、中央自動車道伊北インターチェンジまたは長野自動車道塩尻インターチェンジから車で約20分です。

まとめ

小野のシダレグリ自生地は、その特異な樹形と群生の規模において、非常に貴重な場所です。長年の歴史と地元の人々の保護活動によって守られてきたこの場所は、自然の驚異と美しさを感じさせてくれる貴重な場所です。

参考文献

加藤陸奥雄ほか監修 『日本の天然記念物』 講談社
果樹研究所果樹研究所・遺伝育種部・ナシ・クリ育種研究室 植探訪Vol.21:31〜35 長野県におけるシダレグリ遺伝資源の収集 (PDF)
現地看板（辰野町教育委員会）

関連情報

国の天然記念物に指定された他のクリ：植物天然記念物一覧#被子植物・双子葉類節のクリを参照。
しだれ栗森林公園HP
しだれ栗森林公園 辰野町役場観光サイト
しだれ栗森林公園 塩尻市観光協会
GKZ植物事典シダレグリ

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