小野谷信号場

小野谷信号場：陶芸祭と悲劇の交差点

滋賀県甲賀市に位置していた小野谷信号場は、信楽高原鐵道信楽線に設置された信号場でした。1991年、世界陶芸祭の開催を控え、信楽線の輸送力増強策として建設されました。それまで信楽線は途中駅での列車交換設備がなく、全線一閉塞方式でしたが、信号場の設置により、輸送力強化が期待されました。

信号場の建設には、約2億円の事業費が投じられ、滋賀県と信楽町が信楽高原鐵道に追加出資する形で賄われました。JR西日本も直通列車運行のため、積極的に関与し、車両や乗務員の貸し出しも行われました。滋賀県と信楽町は、世界陶芸祭を毎年開催することで、国際的な発信とともに鉄道による観光促進を目指していました。

1991年3月16日、小野谷信号場は供用を開始しました。単純な列車交換を目的とした構造で、安全側線は設置されていませんでした。しかし、この信号場の完成直後から、予期せぬ悲劇が幕を開けます。

JR西日本と信楽高原鐵道がそれぞれ無認可で信号制御論理を改造したことに加え、運行上のミスが重なり、同年5月14日、JR西日本からの臨時快速列車「世界陶芸祭号」と信楽高原鐵道の普通列車が正面衝突しました。この事故は、42名の死者と614名の負傷者という、甚大な被害をもたらしました。

事故後、信楽線は約7ヶ月間運休し、警察による徹底的な調査が行われました。運転再開後、閉塞方式がスタフ閉塞に変更されたため、小野谷信号場は事実上使用停止となりました。信号機には無効を示す白いバツ印が付けられ、裁判終結後に取り外されました。

信号場の設備は、再認可が難しいことを理由に、事故当時のまま残されました。維持管理費の負担から、信楽高原鐵道と甲賀市は廃止手続きを進め、2018年11月に国土交通省から廃止が認可されました。2020年までに分岐器や上り線の線路が撤去され、2021年度中には全ての設備撤去が完了しました。

現在は、跡地に桜が植樹され、静かにその歴史を物語っています。小野谷信号場は、世界陶芸祭という盛況の裏に潜む、日本の鉄道安全管理体制の課題を浮き彫りにし、多くの教訓を残した場所として、記憶されています。事故を風化させず、安全な鉄道運行のために何ができるのかを問いかける、重要な歴史的場所と言えるでしょう。

関連書籍

JR西日本信楽高原鐵道列車衝突事故犠牲者遺族の会、信楽列車事故被害者弁護団『信楽列車事故 JR西日本と闘った4400日』
網谷りょういち『信楽高原鐵道事故』
鈴木哲法 著、京都新聞社 編『検証信楽列車事故 鉄路安全への教訓』
佐野眞一『ドキュメント｢信楽高原鉄道事故｣』

もう一度検索