少年 (1969年の映画)

映画『少年』について

『少年』は、1969年に公開された大島渚監督による日本映画です。創造社とATGの提携製作による低予算映画でありながら、その衝撃的な内容と映像美で、多くの観客を魅了しました。この作品は、実際に発生した当たり屋一家事件をモデルにしており、全国各地を舞台にしたロードムービーとして展開されます。

あらすじ

物語は、戦争で傷を負い定職につかない男と、その連れ子の少年を中心に展開します。男の同棲相手と彼女との間に生まれた幼い弟（チビ）を含めた一家は、当たり屋行為で生計を立てています。警察の目を逃れるため、一家は常に移動を繰り返します。少年は、車の前に飛び出す危険な行為への恐怖と、両親への反抗心から逃げ出そうとしますが、孤独に耐えきれず、結局は家族の元に戻るしかありませんでした。

旅の果てに、一家は北海道の最北端までたどり着きます。そこには海しかなく、彼らの逃避行は終焉を迎えることになります。家族の絆が希薄な中で、少年は自身の居場所を求め、葛藤し、成長していきます。

解説

この映画のモデルとなったのは、1966年に大阪で逮捕された当たり屋夫婦の事件です。夫婦は子供に当たり役をさせていたことや、全国各地を転々としていたこと、そして被害総額が当時としては異例の金額に上ったことで社会的な注目を集めました。

大島渚監督は、デビュー作以来、犯罪をテーマにした作品を多く制作してきました。この事件に衝撃を受けた大島監督は、綿密な調査を重ね、脚本家の田村孟とともにシナリオを完成させました。

大島監督は、全共闘時代の暴力性やアングラブームを支持してきた一方で、この『少年』では、少年の繊細な心理描写と全国縦断ロケによる映像美を前面に押し出しています。少年の目を通して家族と社会の崩壊を描きながらも、誇張のないドラマとして描き、自身の映画の傾向とは一線を画しました。

また、大島監督は、ATG1000万円映画路線の制約の中で、スタッフやキャストを最小限に絞り込み、全国縦断ロケを敢行しました。映画完成後は、大島監督自身が全国の映画館を回り、上映を依頼する販路拡大キャンペーンを行いました。

少年を演じた阿部哲夫は、養護施設に収容されていた孤児でした。彼は映画公開後、養子の申し出を断り、施設に戻って映画界とは縁を切りました。一方、チビを演じた木下剛志は、後に山田洋次監督の『家族』に出演しています。

ロケ地

この映画は、日本各地でロケが行われました。その主な場所は以下の通りです。

高知県高知市
広島県尾道市
岡山県倉敷市
福岡県北九州市
島根県松江市（松江城）
兵庫県豊岡市（城崎温泉、竹野町）
京都府宮津市（天橋立）
福井県福井市
群馬県高崎市
山形県山形市
秋田県秋田市
北海道後志・歌志内
北海道稚内市（宗谷岬）
北海道小樽市・札幌市

スタッフ

製作：中島正幸、山口卓治
監督：大島渚
脚本：田村孟
撮影：吉岡康弘、仙元誠三
音楽：林光
美術：戸田重昌
録音：西崎英雄
編集：浦岡敬一
助監督：小笠原清

キャスト

父：渡辺文雄
母：小山明子
少年：阿部哲夫
チビ：木下剛志
運転手の一人：尹隆道
ナレーター：戸浦六宏（クレジットなし）
ナレーター：小松方正（クレジットなし）

受賞データ

第43回キネマ旬報ベスト・テン日本映画部門第3位
第1位：『心中天網島』（篠田正浩監督）
第2位：『私が棄てた女』（浦山桐郎監督）

参考文献

世界の映画作家6・大島渚（キネマ旬報社）
『少年』パンフレット（創造社）

外部リンク

少年 - KINENOTE

『少年』は、社会の暗部を鋭くえぐりながらも、普遍的な家族の物語として、観る者の心に深く残る作品です。その映像美と少年の繊細な心理描写は、今なお多くの観客を魅了し続けています。

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