尾上菊五郎 (初代)

初代尾上菊五郎（1717-1784）は、江戸時代を代表する歌舞伎役者の一人です。屋号は音羽屋、俳名は梅幸、幼名は竹太郎と名付けられました。

京都の芝居茶屋の出方である音羽屋半平の子として生まれた菊五郎は、若女形としてそのキャリアをスタートさせます。尾上左門の門下に入り、尾上竹太郎を名乗り、享保15年（1730年）、京都の榊山四郎太郎座で初舞台を踏みました。若衆方として舞台に立ち、その後、若女形として活躍し、たちまち評判を得ます。

寛保元年（1741年）、大坂で人気役者であった二代目市川海老蔵と同座したことが転機となります。翌寛保2年（1742年）、『鳴神』で海老蔵演じる鳴神上人と共演し、雲の絶間姫を演じた際の素晴らしい演技は、大きな話題を呼びました。この成功をきっかけに、同年、海老蔵と共に江戸へ進出し、市村座で女形として活躍の場を広げます。

その後、宝暦2年（1752年）には立役に転じ、幅広い役柄に挑戦するようになりました。しかし、明和3年（1766年）、江戸堺町で経営していた油屋から発生した火災が、隣接していた中村座と市村座に延焼し、両劇場を焼失させるという大惨事となりました。この事件は「菊五郎油見世火事」と呼ばれ、大きな反発を招き、菊五郎は一時的に大坂へ戻ることを余儀なくされました。

しかし、4年後には再び江戸に戻り、華々しい活躍を再開しました。その後、京都、大坂、江戸と三都の舞台で活躍を続け、数々の名優たちと共演を重ねました。『仮名手本忠臣蔵』の大星由良助や『ひらかな盛衰記』の延寿・畠山重忠などは、彼の代表的な当たり役として知られています。

晩年は再び大坂で過ごしており、そこで生涯を終えました。初代尾上菊五郎は、その卓越した演技力と、波瀾に満ちた人生によって、歌舞伎史に大きな足跡を残した偉大な役者であったと言えるでしょう。そして、彼の血を受け継いだ二代目尾上菊五郎もまた、歌舞伎界に大きな影響を与えた人物です。

彼の生涯は、様々な史料や記録から詳細に知ることができます。例えば、『尾上菊五郎一代狂言記』（『新群書類従』第三　演劇其三に収録）や野島寿三郎編『歌舞伎人名事典』（新訂増補）などは、菊五郎の生涯と功績を知る上で貴重な資料となっています。これらの文献を参考に、初代尾上菊五郎の生涯と業績について、より深く探求していくことが可能です。

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