尿素窒素

尿素窒素（にょうそちっそ）

概要

尿素窒素（Urea Nitrogen; UN）とは、体内で蛋白質が分解された際に生じる最終産物である尿素に含まれる窒素分を指す言葉です。尿素分子は化学的に窒素原子を二つ持っており、尿素の分子量約60に対し、尿素窒素は約28に相当します。この尿素は主に肝臓で合成され、腎臓で濾過されて尿として体外に排泄されます。

臨床検査において、血液中の尿素窒素濃度を測定することは一般的であり、これは血液尿素窒素（Blood Urea Nitrogen; BUN）または血清尿素窒素（Serum Urea Nitrogen; SUN）と呼ばれます。BUN/SUNの値は、体への蛋白質摂取量、蛋白質の代謝量、そして腎臓の排泄能力（腎機能）という三つの主要な因子によって変動します。BUNとSUNは測定に用いる検体（全血漿か血清か）の違いであり、血球成分が含まれない血清を用いたSUNの方が、わずかに高い値を示す傾向があります。

単位と換算

尿素窒素濃度は主にミリグラム/デシリットル（mg/dL）という単位で表されます。
尿素窒素濃度（mg/dL）に 2.144 を乗じることで、尿素濃度（mg/dL）に換算できます。
尿素窒素濃度（mg/dL）に 0.357 を乗じることで、尿素の物質量濃度（ミリモル/リットル；mmol/L）に換算できます。

測定法

現在、尿素窒素の測定には主に二つの方法が用いられています。自動分析装置の発達により、どちらの方法も高い精度で測定が可能です。

1. ウレアーゼ法：尿素をウレアーゼという酵素を用いて分解し、生成されたアンモニアの量を測定する方法です。この方法は尿素に対する特異性が高く、より厳密な測定が可能とされています。
2. ジアセチルモノオキシム法：酸性条件下で尿素をジアセチルモノオキシムと反応させ、橙黄色に呈色する度合いを比色測定する方法です。この方法では副反応による影響（ヒドロキシアミンの生成など）を抑えるための工夫（酸化剤の添加など）が必要となります。

変動要因

健康な成人の早朝空腹時におけるBUNの基準値は、一般的に10～15 mg/dL程度とされています。しかし、この値は様々な生理的または病的な要因によって容易に変動します。

上昇する主な要因

蛋白質摂取量の増加：食事などから大量の蛋白質を摂取した場合。
腎臓からの排泄障害：腎臓の機能が低下している場合（腎不全など）、尿の量が少ない乏尿状態、尿路が閉塞している場合など、尿素の排泄が滞る状態。
消化管からの吸収増加：消化管からの出血（胃潰瘍、十二指腸潰瘍など）により、血液中の蛋白質が分解・吸収される場合。また、腸閉塞や腹膜炎といった病態でも吸収が増加することがあります。
体組織の崩壊促進：重度の糖尿病性アシドーシス、広範囲の熱傷、悪性腫瘍、甲状腺機能亢進症（バセドウ病など）など、蛋白質の異化（分解）が亢進する状態。
重症肝疾患（全身状態の悪化や合併症による場合など）

下降する主な要因

蛋白質摂取量の低下：食事からの蛋白質摂取が極端に少ない場合。
肝臓での尿素合成能力の低下：肝臓の機能が著しく低下している（重度の肝不全など）と、尿素を十分に合成できなくなるためBUN値が低下します。
腎臓からの尿素排泄の増加：尿崩症など、腎臓での水の再吸収障害により尿量が増加し、尿素の排泄が増える状態。
* 妊娠：体液量が増加し、相対的にBUN濃度が希釈されるため。

臨床的意義と注意点

BUNは腎機能の指標として広く利用されますが、その値だけで腎臓の機能や病態を正確に評価することはできません。特に腎機能障害を疑う場合や診断・評価を行う際には、血清クレアチニン値や推算糸球体濾過量（eGFR）、尿蛋白量など、他の腎機能関連検査の結果と合わせて総合的に判断することが不可欠です。

BUNは腎機能だけでなく、前述のように食事内容、脱水、消化管出血、肝機能など、腎臓以外の要因でも変動するため、これらの影響を考慮して解釈する必要があります。例えば、消化管からの出血がある場合、腎機能が正常でもBUN値が急激に上昇することがあります。

また、BUN値が基準範囲内であっても、必ずしも腎機能が正常であるとは限りません。慢性腎疾患では、腎臓の機能が約75%以上失われるまでBUN値が目立った増加を示さないことがあります。したがって、もしBUN値の上昇が確認された場合は、すでに腎臓の機能障害がかなり進行している可能性を示唆している場合があります。

このように、BUN値の解釈には腎機能以外の様々な要因が影響するため、特に基準値に近い値や変動が見られる場合には、患者の状態や既往歴、他の検査結果と照らし合わせ、慎重な評価を行うことが重要です。検査前に過度な蛋白質摂取を避けるなど、生理的な変動を最小限に抑えるための注意も必要です。

その他

血液中のBUN以外に、尿中に排泄される尿中尿素窒素（Urine Urea Nitrogen; UUN）を測定することもあります。腎機能が正常であれば、BUNとUUNは比較的連動して増減する傾向にあります。しかし、腎機能に異常がある場合、腎臓における尿素の再吸収や排泄のバランスが崩れることで、BUNとUUNが逆向きに変動することがあり、病態把握の手がかりとなります。

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