居庸関

居庸関：万里の長城の要衝

居庸関は、中華人民共和国北京市昌平区に位置し、万里の長城上に築かれた重要な関所兼要塞です。「天下第一雄関」とも呼ばれ、かつては難攻不落の九塞の一つとして数えられました。現在では史跡として整備され、多くの観光客が訪れる人気のスポットとなっています。

地理

居庸関は、北京市街から北西へ約50キロメートル、八達嶺長城へ向かう途中の峡谷に位置しています。明代以前には北京の最終防衛線としての役割を担っていたため、この付近の長城は幾重にも複雑な構造になっています。居庸関は、その最も内側に位置し、堅固な守りを誇っていました。

歴史

居庸関の歴史は古く、春秋戦国時代に燕が築いた居庸塞がその始まりとされています。同時代の史料である『呂氏春秋』には、「天下九塞、居庸其一」と記されており、当時から重要な要塞であったことがわかります。後漢時代には大規模な要塞として整備され、南北朝時代には北魏によって長城と連結されました。以降、歴代王朝が長城線上の重要な拠点として軍隊を駐留させ、その防衛機能を維持しました。

明代には、北方に追いやられた元軍の再侵攻を防ぐため、長城の大規模な改修が行われました。この際、居庸関もより強固な要塞として改修され、その防御力はさらに強化されました。しかし、清代に入ると、朝廷の統治範囲が長城線よりも北方に拡大したため、北方異民族に対する防衛拠点としての重要性は薄れ、次第に荒廃が進みました。

再び居庸関が軍事拠点として注目されたのは、1937年の盧溝橋事件に端を発する日中戦争の時期でした。中国軍は、チャハル作戦を展開する日本軍に対抗する拠点として居庸関を利用しました。

1990年代以降、居庸関は明代の状態に復元され、万里の長城とともに北京を代表する観光地として多くの人々が訪れています。

雲台

居庸関の南北二門の中間には、「雲台」と呼ばれる特異な石造建造物があります。高さ約10メートル、幅約27メートル、長さ約15メートルのこの建造物は、穹窿（アーチ）状の形状をしており、内部には隧道（トンネル）が設けられています。雲台は元代の建築とされ、かつてこの上には「泰安寺」という喇嘛教（チベット仏教）の寺院が建っていたと伝えられています。寺院の基台がすなわち「雲台」であり、元々は「過街塔」、俗に「塔座児」と呼ばれ、関門を通過する人々の道中の安全を祈願する意味が込められていました。

「過街塔」の南北両口の上部には、インド神ガルーダの像が彫刻されており、その両脇には蛇をまとった女神と思われる像が配置されています。また、内部には喇嘛教の四天王の彫刻が両壁にそれぞれ二体ずつ見られます。これらの彫刻は、西南が摩利海、東北が摩利清、東南が摩利紅、西南が摩利受とされています。各二体の彫刻の中間には、漢文、梵文、西藏文、蒙古文、回紇文、女真文で陀羅尼の経文や雲台建設の由来を記した造塔功徳記が刻まれており、その上部には東西にそれぞれ五体の喇嘛仏と、その他大小さまざまな仏像が彫られています。さらに、天井には形の異なる五つの曼荼羅が描かれています。

これらの彫刻は、元代に仏教が伝来し、経文や仏像を石に篆刻することが流行した時代の遺風を伝えるものとされています。宋代に木版画が発明されると、石彫は徐々に衰退していったため、「過街塔」の壁面に残る彫刻は、中国における最後の仏像経文の刻石とされ、元代美術だけでなく中国美術史においても非常に重要な位置を占めています。

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