屋島ケーブル

屋島ケーブル：屋島への空中散歩は、今は昔

かつて香川県高松市に存在した屋島ケーブルは、屋島の山麓と山頂を結んでいたケーブルカー路線です。正式名称はなく、一般的に「屋島ケーブル」と呼ばれて親しまれていました。四国霊場第八十四番札所である屋島寺や、景勝地として名高い獅子の霊巌へのアクセス手段として、多くの観光客に利用されていました。

開業までの道のりと、地域住民との葛藤

屋島ケーブルの建設は、風致破壊や生活への影響を懸念する地域住民からの反対運動に見舞われました。しかし、1961年（昭和36年）に屋島ドライブウェイが開通するまでは、屋島へ登る唯一の動力交通手段でした。徒歩で約1時間かかる道のりをわずか5分で結び、開業後は観光客でにぎわうようになりました。

路線概要と運行状況

全長858m（営業キロ0.8km）、高低差265mの路線は、1067mmの軌間で、屋島登山口駅と屋島山上駅の2駅を結んでいました。最急勾配は447‰と急勾配でしたが、毎時15分、35分、55分発車の20分間隔で運行され、所要時間は5分でした。日立製作所製の車両「義経号」「弁慶号」2両で運行され、白地に赤帯の塗装が特徴でした。シーズン中は早朝からの運行、オフシーズンは昼間の運行となっていました。ピーク時には年間5万5,514人の利用がありました。

経営難と廃線

しかし、時代とともに屋島観光の衰退が進み、利用客は減少の一途を辿りました。2001年（平成13年）末に親会社であった高松琴平電気鉄道（ことでん）が民事再生法の適用を申請したことが追い打ちをかけ、屋島登山鉄道は単独経営を余儀なくされ、資金繰りの悪化から2004年（平成16年）10月12日、高松地裁に自己破産を申請。負債総額は約9億円にのぼりました。

経営破綻に伴い、同年10月16日からケーブルカーの運行は休止。2005年（平成17年）8月31日には、正式に廃止されました。廃止直前の最終運行日には多くの観光客が訪れましたが、運行前の試運転で電気系統のトラブルが発生し、終日運休となってしまいました。

廃止後：新たな交通手段と存続への願い

廃止後は乗合タクシーによる代行輸送が行われ、後にことでんバスによるシャトルバス運行が開始。JR屋島駅への乗り入れも実現し、屋島への公共交通機関は復活しました。また、ボランティア団体によるケーブルカー運行再開を求める署名活動も行われましたが、高松市による屋島活性化計画ではケーブルカーの復活は検討されませんでした。

廃止後も、車両は屋島登山口駅と屋島山上駅に留置されていましたが、安全上の懸念から「弁慶号」は山麓へ移動。「義経号」とともに、現在も残されています。2015年には、車両の錆び落としと塗装が行われ、新たな姿を見せています。

アクセスと周辺環境

最寄りの駅はことでん琴平電鉄琴電屋島駅で、徒歩約5分。JR屋島駅からも徒歩でアクセスできますが、距離と坂道により、所要時間は公式パンフレット記載の時間より長くかかることを考慮する必要があります。かつてはコトデンバスによる路線バスも運行していました。屋島山上では貸し自転車も利用可能でした。

屋島ケーブルの廃止は、地域の観光史における一つの転換点となりました。かつて空中散歩を楽しませた屋島ケーブルの歴史と、その後の屋島の変化は、地域の未来を考える上で重要な教訓となるでしょう。

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