山口ダム (長野県)

山口ダム

山口ダムは、長野県木曽郡南木曽町の木曽川本川中流部に築かれたダムです。関西電力株式会社によって管理され、専ら水力発電に利用されています。ダムから取水された水は、下流の山口発電所に送られ、最大4万2,000キロワットの電力を生み出します。また、同じく木曽川にある賤母発電所（出力1万6,300キロワット）の取水用調整池としても機能しています。

構造

ダム本体は木曽川の流れを堰き止める形で構築された重力式コンクリートダムです。上流には読書ダム、下流には落合ダムが位置しています。ダムの規模は、基礎岩盤からの高さ（堤高）が38.6メートル、頂上部の長さ（堤頂長）が181.4メートル、堤体の体積（堤体積）が6.1万立方メートルです。ダムの頂上部には、水量を調整するための6門のラジアルゲートが設置されています。

ダムによって形成される調整池は、総貯水容量が348.4万立方メートルに及びます。このうち、発電などに利用可能な有効貯水容量は126.4万立方メートル（利用水深5.0メートルまで）で、水面の面積（湛水面積）は31ヘクタールとなっています（2016年4月時点のデータ）。

発電施設

山口ダムは、主に山口発電所への取水元として機能しています。山口発電所は、ダムの下流左岸に位置しており、賤母発電所よりもさらに下流側になります。発電所は、ダムとの間に長野県と岐阜県の県境があるため、所在地は岐阜県中津川市山口（かつての長野県山口村）となります。

山口発電所は、ダムから水を取り込むダム水路式の発電所です。2017年7月時点での最大出力は4万2,000キロワットで運転されています。発電に使用する最大の水量は毎秒78.00立方メートル、水を落とす高低差を示す有効落差は62.39メートルです。

ダムと発電所の間は、総延長3,070.8メートルに及ぶ導水路（圧力隧道）で結ばれています。この導水路の末端にある上部水槽（サージタンク）から、長さ100.34メートルの水圧鉄管1条を経て、発電用水が供給されます。発電所内には、東芝製の立軸単流単輪渦巻フランシス水車1台と、これに直結する東芝製の発電機（容量4万5,000キロボルトアンペア、力率90パーセント、電圧13.2キロボルト、回転数172rpm）が設置されています。発電所の建物は、鉄筋コンクリート構造の半地下式で建設されています。

歴史

山口ダムが建設された木曽川流域では、大正から昭和戦前期にかけて、当時の大手電力会社であった大同電力によって精力的に水力開発が進められていました。木曽川における大同電力の最初の発電所は、前身の木曽電気興業が1919年（大正8年）に完成させた賤母発電所でした。これは高さ7メートルの堰堤から水を取り込む水路式の施設でした。

1920年（大正9年）3月、大同電力は賤母発電所よりも下流側の岐阜県内に、新たな5地点の水利権を獲得しました。このうち「落合」地点は、当初水路式での開発が計画されましたが、後に計画変更されてダム式の落合発電所として建設され、1926年（大正15年）に竣工しました。この落合発電所の建設に際し、元の「落合」地点の水利権のうち上流部分が「坂下」地点として切り離され、未開発のまま残されることになりました。この「坂下」地点では、水路式発電所として使用水量44.52立方メートル毎秒、有効落差13.03メートルを利用し、4430キロワットの出力を得る計画でした。

長らく開発が実行されなかった「坂下」地点の計画は、戦時中の日本発送電を経て、戦後に関西電力に引き継がれました。関西電力はこの開発計画を見直し、いくつかの変更を加えました。まず、発電所の設置場所を当初計画されていた岐阜県坂下町から、木曽川対岸の長野県山口村（現在の岐阜県中津川市山口）へ移しました。さらに、山口ダムを新たに建設し、これを山口発電所だけでなく、既存の賤母発電所と共用する調整池として使用する方針を決定しました。

建設準備として、まずダムサイトに支障する木曽川左岸の国道19号線の付け替え工事が1955年（昭和30年）6月に実施されました。同年12月には、ダム建設に伴う補償に関して地元山口村との協定書が締結されました。この補償協定の成立を受けて、同月中に「坂下発電所」として建設工事が着手されました。

建設工事は約2年間行われました。1957年（昭和32年）11月30日にはダムでの湛水式が執り行われ、貯水が開始されました。12月2日には発電所の水車試験が完了し、12月29日付で仮認可を取得して営業運転に入りました。運転開始当初、発電所名は「坂下発電所」でしたが、地元山口村からの要望を受けて「山口発電所」へと名称が変更されました。運転開始当初から、発電所の最大出力は4万2,000キロワットでした。

将来計画

2019年2月20日、関西電力は山口ダムから放流される河川維持流量を活用した新たな小規模発電所の建設を発表しました。この仮称「山口維持流量発電所」は、最大使用水量2.84立方メートル毎秒、有効落差27.39メートルを利用して最大630キロワットを発電する計画で、年間発電量は約450万キロワット時を見込んでいました。計画発表時点では、2022年6月の営業運転開始を目指すとされていました。

参考文献

関西電力二十五年史編集委員会（編）『関西電力二十五年史』（関西電力、1978年）
大同電力社史編纂事務所（編）『大同電力株式会社沿革史』（大同電力社史編纂事務所、1941年）
『ダム年鑑2017』（一般社団法人日本ダム協会、2017年）
『電力発電所設備総覧 平成12年新版』（日刊電気通信社、2000年）
* 山口村誌編纂委員会（編）『山口村誌 下巻（近・現代・民俗）』（山口村誌編纂委員会、1995年）

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