山口孤剣

山口孤剣：激動の時代を生きた言論人

山口孤剣（やまぐちこけん、本名：山口義三）は、明治16年（1883年）4月19日、山口県下関市に生まれました。呉服商を営む家庭の三男として育ち、東京政治学校で学んだ後、キリスト教の洗礼を受けました。しかし、松原岩五郎の『最暗黒の東京』を読んで社会問題に関心を抱き、平民社に参加。その後の人生は、社会運動とジャーナリズムに捧げられることになります。

日露戦争勃発をきっかけに、孤剣は戦争反対を訴え、平民新聞の行商に携わりました。小田頼造とともに赤い荷車で九州を目指したその旅は、健康を害し故郷で静養せざるを得ない状況に陥ることになります。しかし、東京での活動は孤剣を待っていました。東京市電の運賃値上げ反対運動への関与を理由に、兇徒聚衆罪で投獄されるのです。

1908年に釈放された孤剣ですが、その歓迎会が引き金となり「赤旗事件」が発生します。この事件は、彼の社会運動家としての活動を象徴する出来事の一つとなりました。獄中で知り合った堺利彦の紹介により、売文の仕事に携わるようになり、評論家としての活動も開始します。代表的な著書『日本社会主義運動史』は、この活動の成果といえるでしょう。

孤剣の活動は常に危険と隣り合わせでした。1907年3月27日、平民新聞に掲載された「父母を蹴れ」という記事は、家族主義道徳への痛烈な批判として大きな波紋を広げます。その結果、孤剣は起訴され、禁錮3ヶ月の判決を受けました。この事件は、孤剣の過激な主張と、それに対する社会の反発を如実に示しています。

孤剣の思想は、帝国主義への批判にも及んでいました。彼の代表作である『破帝国主義論』（1903年）は、その思想の端緒といえるでしょう。この著作は、当時の社会状況に対する鋭い洞察を示しており、孤剣の思想的深さを示す重要な作品です。

孤剣の活動は多岐にわたりました。評論活動の他、数々の著作を発表し、ジャーナリスト、社会運動家として活躍しました。彼の著作には、『社会主義と婦人』（1905年）、『明治百傑伝 第1編』（1911年）、『東都新繁昌記』（1918年）、『階級闘争史論』（1920年）などがあります。これらは、当時の社会状況や思想を理解する上で重要な資料となっています。

孤剣は、1920年9月2日、妻の故郷である愛媛県宇和島市で腎臓病のため亡くなりました。享年37歳。短い生涯でしたが、その活動は、日本の社会運動史に大きな足跡を残しました。孤剣の生き様は、激動の時代を生きた社会運動家、ジャーナリストの姿を鮮やかに描き出しています。彼の活動は、現代においても、社会を考える上で重要な示唆を与えてくれるでしょう。

主な著作

『破帝国主義論』（鉄鞭社、1903年）
『社会主義と婦人』（平民社、1905年）
『明治百傑伝 第1編』（洛陽堂、1911年）
『東都新繁昌記』（京華堂書店ほか、1918年）
『階級闘争史論』（大鐙閣、1920年）

参考文献

田中英夫『山口孤剣小伝』（花林書房、2006年）
* 佐藤林平「山口孤剣のこと」『英学史研究』11号（1979年）

もう一度検索