呉服商

呉服商とは

呉服商（ごふくしょう）とは、日本の伝統的な衣服である呉服、すなわち和服を専門に扱う商業事業者のことです。呉服商は、単に和服を販売するだけでなく、その歴史や文化を伝える役割も担ってきました。

江戸時代の呉服商

呉服商の歴史は古く、江戸時代にはその商業形態が大きく変化しました。京都では、江戸幕府の政策により、それまで力を持っていた上層町衆が没落し、近江、伊勢、美濃などから流入した商人が台頭しました。彼らは、主に御所に近い上京に拠点を置き、新たな取引の主導権を握りました。

特に、皇室や将軍家、諸大名などの呉服御用を勤める呉服商は「呉服所」と呼ばれ、その地位は非常に高いものでした。有力な呉服商は、上方（関西地方）や江戸（現在の東京）など各地に支店を設け、広範囲な流通網を構築しました。

江戸時代の呉服商の主な販売方法は、注文を受けて顧客のもとへ商品を持参する「見世物商い」や、商品を顧客の屋敷へ持ち込んで販売する「屋敷売り」でした。これらは、現代の百貨店の外商に相当するもので、支払いは年に1～2回の掛け売りが一般的でした。そのため、貸し倒れのリスクも高く、価格も相手によって変動するという状況でした。また、当時は反物の売買が主流で、仕立ては顧客自身が行うか、別の仕立て屋に依頼する必要がありました。

しかし、1673年に江戸に進出した三井越後屋呉服店（現在の三越）は、それまでの商習慣を大きく変える画期的な手法を導入しました。「店前売り」「現銀（現金）掛け値なし」「切り売り」「仕立て売り」といった新しい販売方法により、顧客の新たな需要を掘り起こすことに成功しました。

百貨店への移行

明治時代に入ると、呉服商は近代的な百貨店へと姿を変えていきました。1904年、三越は「デパートメントストア宣言」を発表し、座売りから陳列販売方式へと転換しました。この動きに続き、松坂屋、白木屋、松屋などの有力呉服店も、1910年代にかけて株式会社化し、百貨店へと業態を転換していきました。また、大阪を拠点としていた髙島屋、十合、大丸なども同様に百貨店へと移行しました。

他業種への展開

呉服商の中には、両替商や酒造業などを兼業する者もおり、また、多くの財を成し、社会的な地位を築いた者もいました。その事業の起源が呉服商にある現代の日本企業は、百貨店に限らず、丸紅やアコムなど多岐にわたります。

縮小期の呉服流通と呉服店

呉服を含む着物関連産業は、かつて「2兆円産業」とも言われ、1980年には1兆8,000億円の市場規模がありましたが、その後、市場規模は縮小の一途をたどりました。2003年には6,270億円、2014年には3,090億円まで減少しています。これは、洋装の普及や、呉服店の高価格帯商品への注力などが原因として考えられます。

1990年代の呉服市場縮小期には、呉服商から販売業に転換することで生き残りを図る企業も現れました。京都きものプラザは、多少の傷や汚れがある「B反」を安く販売することで人気を集めましたが、その後、オンライン販売の拡大や安価な化学繊維製品の登場により、競争力を失い、2015年に事業を停止しました。

2000年以降、呉服関連企業の倒産は相次ぎました。2000年には114社が倒産し、業界全体が非常に厳しい状況に陥りました。市場縮小の背景には、洋装の普及だけでなく、呉服商が高価格帯の商品に注力しすぎたことが、消費者の着物離れを加速させたという見方もあります。しかし、最も大きな要因は、社会の変化により、着物を着る機会が減少したことにあると考えられます。

呉服商は、売上総利益率は高いものの、人件費や販管費も大きく、経営資本回転率や商品回転率が低いという課題を抱えています。市場規模の縮小もあいまって、流通在庫は2015年時点で3～4兆円という巨額に達すると推定されています。

呉服の流通チャンネルの多様化

近年、呉服の流通チャンネルは多様化しています。2000年代からはリサイクル着物の事業が注目され、2010年代にはネットショップでの売買が急成長しました。また、インターネット通販とサロン風店舗を組み合わせた新たな業態も登場しており、呉服店は変化を余儀なくされています。

呉服店の現状

現在の呉服店では、着物の販売だけでなく、着物のレンタルや着付けサービスなども提供しているところがあります。呉服店は、伝統的な呉服文化を伝えるだけでなく、現代の消費者のニーズに応じたサービスを提供することで、新たな顧客層の開拓を目指しています。

以下は、主な呉服店の一覧です。

市川呉服店
大野屋總本店
川島織物セルコン
京都きもの友禅
銀座くのや
銀座もとじ
さが美
竺仙
白瀧呉服店
白水 (呉服店)
鈴源織物
鈴乃屋
鈴花
千總
東京ますいわ屋
西松屋 (呉服店)
日本和装ホールディングス
本田京染店
豆千代モダン
みそや呉服店
山一織物
山之内 (企業)
たちばな

かつて存在した呉服店

住田呉服店
東京山喜
はれのひ
愛染蔵

呉服商は、日本の伝統文化を支える重要な役割を担ってきましたが、時代の変化とともに、その姿を変えつつあります。今後、呉服商がどのように変化していくのか、その動向が注目されます。

外部リンク

全国の呉服店一覧 - NAVITIME

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