山口絵美菜

山口絵美菜

山口 絵美菜（やまぐち えみな）氏は、1994年5月4日生まれ、宮崎県都城市出身の元女流棋士です。かつて日本将棋連盟の関西本部に所属し、女流棋士番号は55番。森信雄七段の門下生として研鑽を積みました。特に異彩を放つのは、京都大学文学部（心理学専修）を卒業したという、棋士・女流棋士としては初の学歴を持つ点です。

棋歴

将棋との出会いは、小学5年生の時。弟が将棋を始めたことに影響を受け、自身も盤上に向かうようになりました。高校時代にはその才能を開花させ、2010年の全国高等学校将棋選手権大会女子個人戦で準優勝を飾るなど、アマチュア強豪として知られるようになります。同年のマイナビオープンにも挑戦しましたが、プロの壁に阻まれました。

女流棋士を目指すにあたり、山口氏は地元から研修会に通うのではなく、関西圏の大学に進学してから研修会に入るという道を選びます。中学3年生の頃には京都大学を目指すことを決意。高校3年生の冬、大学入試センター試験を前に将棋を一時中断し、「京大に合格すれば女流棋士になれる」という強い思いを胸に、受験勉強に没頭する日々を送りました。この時期が精神的な成長につながったと後に語っています。

京都大学入学後の2013年7月に関西研修会に入会（D2クラス）。順調に昇級を重ね、2014年7月の例会で規定の成績を収め、女流3級となる資格を獲得します。同年10月1日付で女流棋士3級として活動を開始しました。女流3級は2年以内に女流2級に昇級しなければ資格を失う仮の身分です。

女流3級として迎えた最初の1年間は、学業に加え、生活していた大学の寮の運営にも携わっていたため、将棋に十分な時間を割くことが難しく、成績が伸び悩む時期が続きました。しかし、2016年3月に関西将棋会館に近い大阪で一人暮らしを始め、棋士室に足繁く通うようになったことで、次第に調子を上げていきます。そして2016年4月21日、第38期女流王将戦の予選で勝ち上がり本戦入りを決めたことが、「女流棋士昇段級規定」の女流1級に該当する成績と見なされ、同日付で女流2級に昇級。これにより、正式な女流棋士となりました。

正式女流棋士となった後も活躍を続け、2016年8月13日には第10期マイナビ女子オープンの予選を突破し本戦入りを果たし、女流1級へと昇級しました。得意戦法は四間飛車や穴熊といった居飛車穴熊に対する力戦を好む傾向が見られました。

人物・活動

将棋以外にも多才な一面を持つ山口氏。趣味は勉強、音楽鑑賞、そして電線を含む風景写真の撮影を挙げています。「趣味は勉強」と自身に言い聞かせながら、学業と将棋の両立を図ってきました。好物はプリンやパフェです。

京都大学では心理学を専攻し、将棋の棋力向上に繋がる可能性を探るべく、「論理的な思考の諦めやすさ」について研究を行いました。その探求心は、大学での講義にも繋がっています。2019年には桃山学院大学経営学部に新設されたビジネスデザイン学科で、「教養・文化科目担当講師」として「将棋・囲碁」に関する講義を担当しました。

文筆活動も積極的で、日本将棋連盟の公式ホームページや、女流棋士会のブログで頻繁に記事を執筆していました。また、京都新聞夕刊の『なでしこ指南』で指導記事を連載するなど、メディアを通じた普及活動にも尽力しました。

大のミステリー小説ファンとしても知られ、同じ京都大学出身である推理作家の綾辻行人氏との対談が京都新聞の企画で実現しています。綾辻氏からは、正式な女流棋士になった際に祝福のメッセージが寄せられました。

出身地である宮崎県都城市には、女流王将戦のスポンサーである霧島酒造があります。山口氏は正式な女流棋士となった後、3年以内の女流王将獲得を目標の一つに掲げていました。

引退、そして新たな道へ

2022年3月30日付で、山口氏は日本将棋連盟を退会し、女流棋士としての活動を終えました。退会時点では参加中の棋戦が残っていましたが、これらは全て不戦敗となりました。自身のTwitterアカウントで、「新たな夢ができたため、将棋界を去る」旨を表明し、応援してくれた人々への感謝を伝えましたが、後にこのアカウントは削除されています。

将棋界を離れた後の動静は公にされていませんでしたが、師匠である森信雄七段が2023年5月にTwitterを通じて、山口氏が宝塚歌劇団の作品に演出助手として携わっていることを明かしました。これは、将棋とは全く異なる新たな分野での活躍を示唆するものであり、山口氏の挑戦的な姿勢を物語っています。

女流棋士としての通算成績は、退会後の不戦敗5局を含めて27勝68敗でした。その短いながらも、将棋と学業、そして様々な活動を両立させたその経歴は、多くの人々に影響を与えました。

昇級・昇段履歴

2013年7月: 関西研修会入会 (D2)
2014年10月1日: 女流3級
2016年4月21日: 女流2級（女流王将戦本戦入り）
2016年8月13日: 女流1級（マイナビ女子オープン本戦入り）
2022年3月30日: 引退・連盟退会

著書

『観る将のための将棋ガイド』（法研、2021年）

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